全米の42州で新型コロナウイルス新規感染者が増加している。中でもフロリダ州やカリフォルニア州、テキサス州、ジョージア州など南・西部で急激に増えており、事態は深刻だ。

フロリダ州在住者の1日当たり新型コロナ新規感染者数の推移。同州の情報サイトより。1万人の高い水準で推移している

 フロリダ州では米東部時間の2020年7月20日現在、1日の新規感染者数が6日連続で1万人を超えた。これはニューヨーク州で感染爆発が起きた4月上旬と同じ水準だ。

ニューヨーク州の情報サイトより。紺色が検査件数でオレンジが陽性者数
厚生労働省の情報サイトより。6月下旬から陽性者が急増している

 再び感染者数が増え始めている日本にとっても、米国の危機は対岸の火事ではない。ニューヨーク級の感染が起こった場合、医療の現場では、はたまた患者の身には、どんなことが起こるのか。

 ニューヨークの感染爆発まっただ中の様子は、本コラムの4月2日付記事「新型コロナ、若者が次々に重篤化 NY感染症医の無力感」で取り上げた。今回は、同記事で取材した斎藤孝医師に「爆発のその後」を聞いた。

 斎藤医師は、ニューヨーク都市部周辺の病院で感染症の指導医として勤務する。爆発が起こる前から現在の小康状態に至るまでの間、最前線の現場で自らCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)患者の治療に当たってきた。

斎藤孝医師
日本で総合商社に勤務後、米国駐在を経て、40歳を過ぎてから米国の医科大学に進学。卒業後にニューヨーク市ブロンクス地区の病院で内科研修修了。ニューヨーク市クイーンズ地区の病院で感染症フェローとしてエイズや結核などの感染症患者の治療に従事後、20年からニュージャージー州の大学病院で感染症臨床医・指導医を務める。

ニューヨーク周辺の感染爆発は収まってきましたが、現場の状況はいかがですか。

斎藤孝医師(以下、斎藤氏):4~5月に比べると、現在はかなりCOVID-19の入院患者さんが減りました。でも6月までは別の意味で厳しい状況でした。

別の意味で、と言いますと?

斎藤氏:COVID-19の患者さんの中でも良くならない人たちがまだ大勢いました。長期間、例えば、入院から20~30日たっても人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO=エクモ)につながれたままで、まだ退院できない患者さんたちです。

 その患者さんたちが様々な合併症になってまして……。何種類もの。

COVID-19とはまた別に、でしょうか。

斎藤氏:そうです。COVID-19がきっかけとなって、肺はもちろん敗血症性ショックなどで腎臓や肝臓など他臓器にも影響が出てくるのですが、様々な細菌性の感染症にもかかりやすくなるのです。すると更に重篤度が増して、致死率も上がります。敗血症性ショックの昇圧治療のために施すCVライン(中心静脈静脈路確保)などから細菌性の感染症が引き起こり、ショック、多臓器不全になるといったパターンです。

 人工呼吸器関連肺炎(VAP)で 人工呼吸器に長期間つながれている患者さんはほぼ全員、罹患(りかん)するに至りました。しかも抗生剤への耐性のある細菌が多く、抗生剤の選択に実に苦慮しました。ですから、(感染症医でも)通常は聞いたことのないような細菌に患者さんが感染されることが頻発しました。

 優秀なICU(集中治療室)の専門医たちが、患者さんを助けるためにいろんな手段を施します。COVID-19だけではなく、いろんな感染症にかかってしまうので、我々感染症の専門医も特別な「(薬剤の)カクテル」を処方して、ああでもないこうでもないと試しますが、多くの方は力尽きて、お亡くなりになります。

 非常につらい状況でした。

初期に使っていた薬の落とし穴

斎藤氏:COVID-19の患者さんが他の感染症まで発症することに拍車がかかった原因の一つに、我々が初期に多用していた「アクテムラ」のようなインターロイキン6(IL-6)阻害薬の影響もあると考えられています。COVID-19が怖いのは、ウイルス感染によって免疫機能が暴走して(正常な細胞も攻撃して)しまうことです。IL-6阻害薬は免疫機能の一部をあえて低下させることでこの炎症を食い止めるというメカニズムですが、故に感染が起こりやすくなるというもろ刃の剣にもなり得るのです。

 またCOVID-19の治療薬として承認された「レムデシビル」も、回復への日数短縮という効果は確かにありましたが、致死率への貢献はほとんどありませんでした。

 一方で、一度感染して回復した人から採集した「血漿(けっしょう)抗体治療」もかなりの件数、治験を行いましたが、こちらもレムデシビル同様の調査結果が出ています。抗体がどのくらいの期間存在し、確たる防御になるのか? まだまだ様々な研究・調査の余地が残っている状態です。

 ですから、劇的に効くという薬がまだないのです。

続きを読む 2/3 手術が必要ながん患者も手術できない

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