安倍晋三元首相が銃弾に倒れた7月8日以降、米国でも日本の警備態勢を取り上げた報道が出ている。奈良県警本部長の記者会見の内容など、日本で報道されていることを事実として伝えるものが多い。

 過去に現役大統領の暗殺事件も起きた米国では、安倍元首相に対して敷かれた警備態勢の薄さに「信じ難い」という印象を持つ人は多い。一般市民からも「なぜ銃撃の機会を与えてしまったのか」と嘆く声を聞く。

 では実際、米大統領の警備態勢とはどのようなものなのか。筆者は2019年4月に米国に赴任してから何度か、大統領が登場するイベントに出席し、その警備態勢を目の当たりにした。今回はその内容について取り上げたい。現役と退任後では警備の度合いが異なって当然ではあるが、何らかの参考になればと思う。

 筆者が出席した大統領関連のイベントは大きく2種類ある。一つは一般市民も参加できる公共性の高いイベントで、もう一つが政府関係者や報道陣など身元が確認できている人のみ参加できるクローズドのイベントだ。

 19年11月11日、ニューヨーク市マンハッタンで開催された退役軍人をたたえる「ベテランズ・デー」のイベントは前者だった。当時のトランプ大統領とメラニア夫人が登壇をすると聞き、「生トランプ」を体感しようと意気揚々と出掛けた。

 市民が参加できるといっても、退役軍人とその家族がその日の主役。会場となったマディソン・スクエア・パークは関係者以外は入れないようにバリケードで囲われ、中に入るにはセキュリティーチェックが必要だった。

 ただチェックはそれほど厳しくなく、報道陣の場合は記者証と運転免許証などのID2点を提示し、簡単に手荷物検査を受けただけでよかった。ちなみにあらかじめホワイトハウスへ申請して許可を取る必要はあった。

 その代わりと言うべきか、周囲の警戒は最高レベルのように見えた。

 まず驚いたのがヘリコプターの音の大きさだ。会場となった公園は高層ビルで囲まれているため、そこから暗殺者が狙う可能性もある。それを威嚇するかのように近距離でヘリが飛行していた。肉眼では見えなかったが、高層ビルの中にもスナイパーが配備されていたのではないかと推察する。

ビルの合間を縫うように飛ぶヘリコプター
ビルの合間を縫うように飛ぶヘリコプター

 というのも、スナイパーのような人物は地上にもいたからだ。会場の後方にコンテナが設置され、その上で銃を抱えたシークレットサービス(大統領警護隊)の隊員とみられる人物が常に周囲を見渡していた。銃を見慣れていなかった筆者は、その光景を見ただけで恐怖感を覚えた。

コンテナの上から常に目を配らせていた警護員
コンテナの上から常に目を配らせていた警護員

舞台への動線も「目隠しテント」で防護

 舞台の設置の仕方にも工夫が見られた。

 下の写真はイベントの開始前、最後方に設置された報道陣席(といっても椅子などはなく、バリケードで区画されたエリア)から見た会場の様子。舞台に向かって右側に白いテントで通路がつくられているのが分かる。これは大統領のための特設通路で、暗殺者に要人の居場所がバレないようにする狙いがあるとみられる。

大統領用に目隠しのための通路が特設されていた
大統領用に目隠しのための通路が特設されていた

 また舞台そのものも背後に壁、前方もほぼ180度、防弾ガラスで覆われていた。これなら銃撃事件の多い米国でも、大統領は安心してスピーチに集中できそうだ。

前方を防弾ガラスが覆う
前方を防弾ガラスが覆う
登壇したトランプ氏とメラニア夫人
登壇したトランプ氏とメラニア夫人

 ちなみに米国における銃撃事件のデータを収集して公開している「ガン・バイオレンス・アーカイブ」によると、22年初から7月12日までの間に米国で発生した銃撃事件による死者は2万3000人を超えた。乱射により複数の死傷者が出る「マス・シューティング」も300件以上、起きている。

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