東京五輪・パラリンピックの報道陣向けに設置されたプレスセンター(写真=新華社/アフロ)
東京五輪・パラリンピックの報道陣向けに設置されたプレスセンター(写真=新華社/アフロ)

 「我々、報道機関は、日本の皆さんの敵ではない」

 国際スポーツ記者協会(AIPS)のジャンニ・メルロ会長は2021年7月2日、オンラインで開いたAIPSの世界カンファレンスのスピーチで、こう力強く訴えた。

 メルロ会長が問題視しているのは、海外から東京五輪・パラリンピックを取材するため来日する報道陣に課せられる「行動制限」だ。この数日前には、ニューヨーク・タイムズなど米国の主要メディア十数社のスポーツ担当責任者らが連名で、大会組織委員会に同様の抗議の書簡を送っている。

 大会組織委などが用意した海外メディア向け行動指針書「プレーブック」によると、ソーシャルディスタンスやマスクの着用といった一般的な新型コロナウイルス対策と、入国の際の書類提出や検査に加え、主に下記の規制が課されていた。

1. 来日後の3日間は宿泊施設で自主隔離を実施する(14日間を選択することもできる)。ただし大会に関連する行動のみ、検査で陰性の結果が出れば許可されるが、常に組織委の監視下に置かれ、GPS(全地球測位システム)のデータも確認する可能性がある

2. 来日後の14日間は大会用に定められた宿泊施設や移動手段を使用し、他の宿泊施設を利用する場合は申請して許可を取る

3. 来日後の14日間は細かな行動計画を大会組織委員会に提出して許可される必要がある。またこの計画に記載されている以外の行動は基本的に取ってはならない(許可を取れば可能だが、許可が下りる可能性は低い)

 大会組織委の対応に海外メディアが不満を抱くのも無理はない。というのも、こうした規制は来日したばかりの海外メディアのみで、日本にいるメディアは対象になっていないからだ。

日本の国民全員が「監視員」?

 メルロ会長の“怒りのスピーチ”は行動規制の詳細にまで及んでいる。

 「信じがたいのは、我々はプレスセンターや大会の関連施設、宿泊施設などでの飲食が許されているが、コンビニエンスストアに買い物に出かける場合は、警備員にその旨を伝え、15分以内に戻らなければならないことだ」

 「もし15分以内に戻ることができなければ大会の記者証を奪われる。何千ドルもの費用をかけて日本へ行き、自主隔離もして、数々の規制にも従うのに、コンビニでおカネを支払うのに20分かかってしまっただけですべてが台無しになるのだ。これは受け入れがたい」

 同会長によると、海外メディアが所定の場所から外に出るときは必ず警備員の許可が必要で、戻ったときはどこで何をしたかの記載が求められるという。さらに次の点も指摘した。

 「我々、報道陣は『大会の一部』と見なされるため、日本の人々がもし無断で外出している我々を目撃したらそれを撮影し、SNS(交流サイト)などで報告することが奨励されているという。こんな人種差別的な扱いは、これまで聞いたことがない」

 プレーブックにこうしたことは書かれていないが、海外メディアの間で噂が広がっているようだ。

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