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 「まさか!なぜこの人が自分にこんなことを?」

 誰しも、思いも寄らない人から思いも寄らない攻撃を受け、目の前が真っ暗になることはある。筆者もこれまでに何度かそんな経験をしてきた。いつものように自分の手で心の「修理」をすれば、乗り越えられる。そう思っていた。

 だが、今回ばかりは少し違った。個人的なことも含まれているので具体的な記述はしないことにするが、今回の出来事でこれまでと大きく異なっていたのは、自分自身が置かれていた状況だった。

 筆者は2020年2月末の出張先で、確率はかなり低いながらも新型コロナウイルス陽性者と接触した可能性が残っていたため、3月初めから自主的に隔離生活を送っていた。ニューヨーク市に外出禁止令が出たのは同月22日。そこからニューヨークの街は転げ落ちるように「地獄絵図」へと変わっていった。

 女性であることもあり、仕事で涙を見せるのはご法度だと思ってきたが、新型コロナ関連の取材では、どうしても涙が止まらなくなることが何度もあった。

 「直接、会って取材させてください」と取材先に依頼するのはこちらでは失礼に当たるため(「あなたの命を危険にさらしますがいいですか?」と言っているようなものだ)、対人取材のほとんどを電話かZoom会議の遠隔でしていた。長く人と会わない状況が続いていた。

 自宅ですさまじい体験の話を聞いていると、喉がつかえて質問ができなくなることがしばしばあった。取材を終えても、しばらく涙が止まらない。そんなときは、とにかく自分が落ち着くのを待って、冷静になってから原稿を書く……という作業を続けていた。

 地獄絵図からようやく抜け出たのが6月だ。一連の状況は、たぶんどんな災害を経験した人も味わったに違いない「異常事態」だったのだと思う。

 ふと気づけば、冒頭のような、割と人生で何回か経験してもおかしくない出来事に遭遇したときの耐性が自分でも驚くほど失われていた。そこで、こう思い立った。

 「よし、ニューヨーク市が無料で提供している『NYC WELL(心の相談窓口のようなもの)』のサービスを受けてみよう!」

NYC WELL」のカウンセラーによると、同サービスは新型コロナを機にできたのではなく以前からあったそうだ

 というわけで、5月29日付の体験シリーズ第1弾「PCRのおまけ付き 感染爆発NYで抗体検査を受けてみた」に引き続き、今回は同市の無料メンタルケア・サービスの体験談をお届けしたい。

※体験シリーズ第1弾の記事で「PCR検査と抗体検査の結果は次回で」と予告していたので念のためご報告すると、両方とも陰性でした。

 決行したのは米独立記念日翌日の7月5日、場所は自宅だ。

 ニューヨーク市はこの記事を執筆している6日から、経済再開段階の「フェーズ3」に入った。エステやネイルサロンなどの営業再開が認められたほか、レストランやバーも、店外での飲食(それでもテーブル間にパーティションを設けるなどの一定条件はある)が許された。

7月6日午前10時頃のタイムズスクエアの様子。まだ人もクルマもまばらだ

 それでも自宅で巣ごもりを続けるニューヨーカーは多い。数日前、米国人の知人に「そろそろご飯でも行きませんか?」と誘ったら、「近所では若い人たちがマスクもせずに集まっている。まだレストランでの飲食はたとえ屋外でもしたくない」と、結局、Zoomカクテルアワー(たぶん軽くお酒を飲みながらおしゃべりをするものだと思う)をすることになった。

 カリフォルニア州やテキサス州など、米国内の数多くの州で新型コロナの感染者が急増している。米国の新型コロナ対策は、あっちをたたけばこっちで顔を出すのモグラたたき状態で、一向に終わりが見えない。

 巣ごもり生活はまだまだ続きそうだ。やはり心のケアはしっかりしておかなければ! サバ缶を使ったサバの味噌煮を鍋で作りながら、いざ電話をかけてみた。

取材のときは電話をスピーカーにしてICレコーダーで録音している

たどたどしいカウンセリングの始まり

 サービスを受けた後のフィードバックに協力するかどうかを確認する自動音声が英語とスペイン語、中国語で流れた後、電話はカウンセラーらしき人につながった。

 「トゥルルルルル……こちらNYC WELLのコービーです。ハウ・メイ・アイ・ヘルプ・ユー?」

 自分でかけておきながら「どういたしましょうか」と言われて、どうしてほしいかが分からなかった。声と話し方、名前から、20代の黒人男性だろうと思った。

 「えっと、この電話番号にかけるのが初めてなので、何をどう話せばいいのか分からないのですが、どうしたらいいですか?」

 素直にこう聞いてみた。

 「何かの出来事がきっかけで不安を感じているのでしょうか? それともただ漠然と? 何でもいいので状況を説明してもらえれば、こちらから質問します。そこから、あなたの気持ちを楽にするために僕たちに何ができるかを考えましょう」

 なるほど。

 何から説明すればいいのだろう。まずは軽く自己紹介をした方がいいと思い、おおまかに説明した。自分は日本人で、1年前にニューヨークに赴任したことと、仕事が忙しく友人・知人を増やすタイミングを逃したこと、そうこうしているうちにパンデミックが起きて自宅の独り生活に突入したこと、そこにある出来事が重なって心が少し疲れていること……。

 しばらく彼は「ふんふん」と話を聞いていたが、筆者の説明が一段落すると、静かにこう話し始めた。