「暗号資産(仮想通貨)っていったい何?」という素朴な疑問の答えを探し求めて始まった、この体験シリーズ「ドージコイン編」。
前回の「それゆけドージ! 米国で「柴犬」仮想通貨を買ってみた」では、当時、米コインベースが取り扱いを始めて米国内で大きな注目を集めていたドージコインを実際に購入するまでの模様をお届けした。
その過程で、「仮想通貨ド素人」の筆者が学んだこととして、インサイダー取引の対象からは現時点では外れるだろうこと、仮想通貨は取引に「マイニング」と呼ばれるコンピューター処理が必要となり、その処理をした個人や会社への報酬として新たに発行されるコインが支払われること、それにより流通コイン量が増え、コイン価格に影響を及ぼすことなどにも触れた。
実際に購入した部分は最後の最後に登場しただけだったので、「おいおい、本題はまだか?」と突っ込みを入れたくなった読者も多かったかもしれない。
今回こそ本題だ。ドージコインを購入した後の筆者のジェットコースターのような心理状態と、さらに購入しても解明できなかった「ある謎」を解明するためにコンタクトを取ったドージコイン創始者の、日本と関係する意外な真実をお届けする。
米仮想通貨交換大手のコインベースのサービスを使って無事にドージコイン10ドル分の購入を終えた筆者は、大船に乗った気持ちでコインの値動きを眺めていた。
購入したのは2021年6月12日の土曜日。目的はもちろん、購入体験を通じて「仮想通貨とは何か」の疑問を解明するため。でも、勝負は勝負だ(笑)。値が3日の42セント台から32セント前後まで落ちたのを見計らい、「今だ!」と購入ボタンを押した。晴れて憧れのドージ(ドッグ)オーナーになったのだ。
ところが……値はしばらく上下しながら30セント台へ突入。そして購入から6日後の18日、ついに29セント台まで下落した。
「耐えてくれ、ドージ!」
必死で応援する(実際には何もしていないのだが)筆者。そのかいあってか、なんとか20数セントあたりをうろうろするも、ついに22日、あっけなく17セント台に急落した。
「ギャー!」
ドージコインの価格は単位がセントだし、そもそも筆者の購入額が10ドル(正確には手数料を引いて9ドル1セント)だったので、いちいち動揺するのは大げさすぎる。だが、あくまで目的は仮想通貨の真相を探る旅。本当は10ドルだけれど、巨額投資をする人たちの心境を肌で感じるため、筆者は頭の中で10ドルを「10万ドル」に変換するようにしていたのだ。
購入からわずか10日後、1ドージ32セント台だった価格が17セント台になったのだから、投資額はおよそ半分に目減りしたわけだ。元手が本当に10万ドルだったら、これはもう冷や汗ものだ。こんな状況ではたとえハートが強いと自負する筆者でも気持ちが持たない。
「いや、待てよ。もう一つあるんだった」
ある事実をここで打ち明ける。コインベースでドルを仮想通貨に交換するには身分証明書の登録が必要になるのだが、その時、ちょうどキャンペーン中で、登録するだけで5ドル分のビットコインが配布されることになっていた。つまり筆者は図らずも、ビットコインのオーナーにもなっていた。
「よし、君は王道中の王道だ。やればできる!」
ドージコインのロゴがシバイヌだからだろうか、仮想通貨の擬人化が止まらなくなった筆者は、そうつぶやきながらビットコインの値動きを確認した。すると……。
当たり前と言えば当たり前だが、どの仮想通貨も値動きはほぼ同期しているため、ビットコインも値が崩れていた。
5ドル分のビットコインが配布されたのが16日で、この時の価格は1ビットコイン3万6000ドル台(さすが王道、価格がドージコインの数十セントと比べものにならない)だった。これが22日時点で2万9000ドル台にまで下がっていた。
もはや打つ手なし(最初から打つ手などないのだが……)。すっかり意気消沈した筆者は、売却を考えた。いや、でももう少し待ってみよう。もしかしたら値が戻るかもしれない。焦りは禁物だ。
マスク氏と気軽にやり取りするドージアーミー
価格のボラティリティー(変動率)の高さに心を揺り動かされている間、筆者は別の調査も同時に進めていた。ドージコインを崇拝する「ドージアーミー」たちが、こうした値動きにどう反応しているかだ。
ドージアーミーが集うのは、主にオンライン掲示板「レディット」。チェックしてみると、筆者がビビり始めたのと同じ頃にドージアーミーたちにも動揺が広がっていた。
「ホドラー(長期保持者)は常に勝つのだ。我々は持ち続ける。我々は負けられない(ロケットと月のアイコン)」
「ドージが永遠に低空飛行なんてあり得ない。時間の問題だ。次の大きな飛躍がやってくる前の(ロケットと月のアイコン)」
ロケットと月のアイコンは、どこまでも価格が上がっていくのを願う決まり文句「to the moon」を表している。価格が下がっても、互いに励まし合いながらぐっとこらえている様子が伝わってきた。
ドージコインのブームを作った立役者、イーロン・マスク氏はどうか。ツイッターをチェック。この1カ月前ではあったが5月20日、ある人物が「イーロンも所有しているドージを手放さないだろう。彼は究極のホドラーなのだから」とツイートしたのに答え、「そうだ、どのドージも売っていないし売るつもりもない」と反応していた。
前回の記事で触れたが、ドージアーミーのコミュニティーには独特な雰囲気がある。DOGEを頭文字にした「Do Only Good Everyday(毎日善いことをしよう)」が合言葉。インターネットにありがちな誹謗(ひぼう)中傷をできるだけ排除し、慈善団体への寄付や他者への思いやりを重んじる。この独特な空気感のルーツは何なのか。それが知りたくてたまらなくなった。
そこで取材を申し込んだのが、ドージコイン創始者の一人であるビリー・マーカス氏(以下、ビリーさん)だ。創始者は2人いて、もう一人のジャクソン・パーマー氏(以下、ジャクソンさん)は仮想通貨のコンファレンスに登場するなど比較的に露出が多かった。でもビリーさんはメディアにもほとんど登場していなかった。
筆者はこの時、なぜかビリーさんに問い合わせようと考えた。今、振り返ってもなぜだかよく分からないが、ビリーさんに興味が湧いたのだ。
そう感じさせた理由が一つだけあるとしたら、ビリーさんを実際に取材したと思われる数少ない記事の一つに、広島の厳島神社の鳥居を背景に写したビリーさんの写真があったことだ。
「もしかしたら日本好きなのかな?」
その時はそのくらいにしか考えていなかったが、これが意外な真実へと筆者を導いてくれることになる。
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