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 米アマゾン・ドット・コムが、環境や人権保護への企業責任を追及する一部従業員と対立を深めていることは既報の通りだ(「アマゾンに抗議し辞めた元幹部『民衆の怒りはテック大手にも』」)。

 同社のジェフ・ベゾスCEO(最高経営責任者)は2020年6月23日、こうした動きに後押しされるかのように気候変動対策に特化した投資基金「気候公約ファンド」に会社として20億ドル(約2100憶円)の資金を投じることを発表した。ベゾス氏は同年2月、個人資産の約8%にあたる100億ドルを同様の基金を立ち上げて投じることも明かしている。

 「内なる反乱」──。米テック大手の間で数年前から、知的労働者であるテック従業員の社内抗議運動が勢いづいている。

 走りは、18年11月に米グーグルで起きた従業員による抗議デモ「ウオークアウト」だ。幹部のセクハラに見て見ぬふりをした経営陣に抗議し、世界各地の従業員たちが一斉に社外に出て勤務ボイコットをした。その後、グーグルは、過去2年間にセクハラに関与した13人を解雇した。

 そして今、最も注目されているのがアマゾンだ。

 「アマゾンが収益のためにどれほど温暖化ガスを排出してきたか。新型コロナウイルスの感染拡大で追い風が吹き、2020年1~3月期に754億ドルを売り上げたが、そのためにどれだけの倉庫・配達スタッフの安全や倉庫周辺コミュニティーの環境を犠牲にしてきたか」

 運動を推進するアマゾンの社内アクティビスト団体「アマゾン・エンプロイーズ・フォー・クライメット・ジャスティス(AECJ)」の中心人物の1人、マレン・コスタさんはこう憤る。

 コスタさんは累計17年間、同社にユーザーエクスペリエンス・デザイナーとして勤務したが、AECJの活動が原因で今年4月11日、突如、解雇されている。新型コロナのパンデミックで安全が十分に確保されていなかったとされる倉庫従業員とテック従業員をつなぐ会合を、まさに開こうとしていた十数分前だった。アマゾン側は解雇と本件の関連性を否定している。

米シアトルの自宅でインタビューに答えてくれたマレン・コスタさん

 なぜアマゾンはそこまで従業員の組織化を嫌うのか。マレンさんの解雇の経緯を詳しく見ていくと、その理由が見えてくる。

「解雇は時間の問題」と悟った瞬間

 コスタさんは、仕事をしながら2児を育てるワーキングマザーだ。アマゾンに入社した約20年前の同社サイトは、ユーザーエクスペリエンスの点で「まだ改善すべきところがいっぱいだった」という。それだけに仕事にはやりがいを感じていた。上司との関係も良く、「アマゾンで働いていることが誇りだった」。

 環境問題に目を向けるようになったのは、自身の子どもたちの未来を真剣に考えるようになったここ数年だ。未来を変えたいけれど、自分に何ができるのか。そのときにひらめいたのが、アマゾンを内側から変えていくことだった。

 アマゾンはいまや世界で最も力を持つ企業の1つと言っていい。経営者は世界一の大富豪。アマゾンが環境に配慮したビジネスモデルを確立すれば、その他の企業も後を追うだろうと考えた。

 コスタさんが懸念していたのは、アマゾンがまい進する「速達」路線だ。たった1つの商品でもその日、あるいは翌日に届けていては、配達頻度が上がり、それだけ環境を破壊してしまう。まずこの事実を顧客に知ってもらうため、商品ごとに配達するとどのくらい環境に悪影響が出るのかなど、環境への影響度をサイト上で分かりやすく表示する仕組みを提案した。コスタさんが手掛けるユーザーエクスペリエンスの領域でもあったからだ。

 ところが、上司や関連部署には全く聞く耳を持ってもらえなかった。次第に同様の問題意識を持つ仲間たちと知り合うようになり、アマゾンを内側から変えていくにはどうすればいいかを相談するようになった。このときの複数メンバーで立ち上げたのがAECJだ。

 最初に取り組んだのが、19年4月に発表し、世界で話題になった「ジェフ・ベゾス氏とアマゾン役員への公開状」だ。アマゾンが環境保護においてリーダーになるべきだとする文書には、一部幹部を含む従業員8702人が署名した。

 同年9月20日には本社のあるシアトルで、AECJ主導により3000人のテック従業員が参加するウオークアウトも実施された。その直前の19日、ベゾス氏は40年までにカーボンニュートラルを実現すると誓う「クライメート・プレッジ(The Climate Pledge)」を発表した。AECJの活動が大きな成果を上げた瞬間だった。

 コスタさんによると、解雇通達につながるきっかけになる出来事が同年10月に起きている。ベゾス氏が所有する米紙ワシントン・ポストの取材に答え、アマゾンが石油発掘を支援する技術を石油会社に提供しているのは「環境保護よりも利益を優先させているからだ」と批判した。その直後、会社の人事部門から電話があり、Zoomミーティングに参加するよう促された。そこにはミネソタ州にいる同社の弁護士がいて、「報道陣など外部に社内の話をするのは禁じられている。社内規約を送るから確認してほしい。次にもし同じことが起きたら解雇の対象になる」と告げられたという。

 「このときから解雇は時間の問題だった」とコスタさんは振り返る。