全米で黒人差別や警察による暴力への抗議デモが長期にわたって繰り広げられる中、企業内の活動として今、最も注目を集めているのが米アマゾン・ドット・コムの従業員が組織するアクティビスト団体「アマゾン・エンプロイーズ・フォー・クライメット・ジャスティス(AECJ)」だ。

 アマゾンが環境保護において企業責任を果たしているかを問う団体だが、ここ数カ月はもっと幅広い分野の抗議活動を展開している。倉庫で新型コロナウイルス対策が不十分であったことや、これに抗議した従業員が解雇されたこと(関連記事「アマゾン、新型コロナ対策で抗議の従業員解雇 本人を直撃」)、アマゾンの倉庫や運送システムが大気汚染の原因となっているとされる地域が有色人種の居住区であること、なども改善が必要だと訴えている。

 特に新型コロナの感染拡大が深刻化した2020年3~5月は、声を上げたAECJのリーダーや倉庫スタッフが次々と解雇され、地元メディアでも大きく取り上げられた。

 渦中の5月1日、アマゾンのクラウド部門、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)でバイスプレジデント(VP)を務めていたティム・ブレイ氏が、アマゾンのこうした一方的な解雇に抗議して会社を辞めた。

 「パチン! その瞬間、頭の中で何かがはじけた」

 ブレイ氏は退社を決めた瞬間をこう表現する。そのとき、社内で何があったのか。アマゾンという巨大テック企業が抱える問題の本質は何か。また全米で「怒れる民衆」が大挙して声を上げる背景には、米社会のどんな構造が隠れているのか。ブレイ氏に聞いた。

 なお、AECJの活動の詳細や「アマゾン、新型コロナ対策で抗議の従業員解雇 本人を直撃」で取り上げたクリス・スモールズさんの現在の状況については本コラムで追って取り上げる。

退社を決めた理由を教えてください。

ティム・ブレイ氏(以下、ブレイ氏):細かな経緯については私のブログにつづっていますが、直接的な理由は、AECJで倉庫の環境改善を訴えたエミリー・カニンガムさんとマレン・コスタさんという2人のテック系従業員をアマゾンが解雇したことです。倉庫スタッフも、スモールズさんなど声を上げた複数の人が解雇されました。

(編集注:カニンガムさんは3月27日、「安全でなく、清潔な環境にもないアマゾンの倉庫で働く同僚のために最大500ドルを寄付する」とツイッターに掲示。コスタさんがその掲示をリツイートした。2人は抗議のためのオンライン会議の案内を社内メーリングリストを用いて送信した4月10日、解雇された)

Zoom会議システムでカナダ・バンクーバーの自宅からインタビューに答えるブレイ氏
Zoom会議システムでカナダ・バンクーバーの自宅からインタビューに答えるブレイ氏

 私も環境問題で活動してきたアクティビストの一人ですが、こうして声を上げるアクティビストを解雇するのは企業として非論理的です。アクティビストは、企業がしかるべき責任を果たしていないときにそれを指摘し、改善してより良い企業にするために活動しています。彼らの声を聞くのではなく口を塞ぐというのは納得できません。

退社前には経営層にどんな話をしたのですか。

ブレイ氏:詳しくは秘密保持契約があるので話せませんが、考え得る適切な人物に会いに行き、言うべきことは言いました。

 本来ならアマゾンは、アクティビストたちの話を聞き、彼らを中心にタスクフォースを立ち上げ、倉庫の現状改善に着手すべきでした。単に解雇で封じ込めるのは、非論理的、かつ愚か。アマゾンは非常に賢い会社ですが、この点ではとても愚かだと思います。

「怒れる民衆」がテック企業を責めるワケ

AECJの一連の案件は、現在、全米で展開されている人種差別や警察による暴力に対する抗議デモに通じる話だと思いますが、こちらのデモはどうご覧になっていますか。

ブレイ氏:英語の表現で「オーバートン・ウインドー(Overton Window)」というのをご存じですか。(政界や経済界で)それについて話しても「頭がおかしい」と思われずに済む範囲の話題のことです。このオーバートン・ウインドーが今回の抗議デモによって変化したと思います。数週間前までは、「警察のデファンド(予算削減)」なんて話を一般の人がすることはありませんでした。それが今はできる。オーバートン・ウインドーの範囲が変わったのです。

 人々の物の考え方を変え、社会にインパクトを与えられるのが抗議活動です。

人々が政府だけでなくテック企業に対しても抗議をするのはなぜなのでしょうか。

ブレイ氏:米国では10年前、大手テック企業はまるで社会の英雄かのように尊敬されていました。スティーブ・ジョブズ氏やラリー・ペイジ氏、もう少しさかのぼるとビル・ゲイツ氏など、テック企業を育てた経営者は英雄だったのです。モバイルパソコンやインターネット、無料の情報コンテンツまで、社会にさまざまな利益をもたらしてくれました。

 でもこの10年間で社会の見方はだいぶ変わりました。多くの人々が、彼らを疑念の目で見つめるようになったのです。フェイスブックやグーグルが、本当に人々のプライバシーを道義的に扱っているだろうか? 手にした大きな権力を乱用しているのでは?と疑い始めました。

 この変化を大きな枠組みで見ると、社会が抱える問題の本質が見えてきます。時間がたてばたつほど開いていく富や人権の「格差」です。

 金持ちはどんどん金持ちになり、貧困層はますます貧困になる。格差は広がるばかり。気づいたら、金持ちは自分の1000倍も金持ちだった──。この大きな要因の1つをつくったのが、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフトといった大手テック企業です。

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