新型コロナウイルスの感染爆発が起きた米国で今、秋口の感染「第2波」への懸念が急速に高まっている。
米ワシントン大学の保健指標評価研究所(IHME)は2020年6月10日と11日、更新した予測モデルに基づく米国の感染拡大予想を発表した。8月までは感染拡大の威力は弱まるものの、9月15日ごろから再び増加傾向に転じ、8~10月には米国で新たに3万610人の死者が出ると予測している。10月1日までの死者の合計は16万9890人(予想範囲は13万3201~29万222人)に達すると見る。
事実、米東部時間の6月14日時点でも第2波の予兆はある。同日付ニューヨーク・タイムズの記事によると、米国全体の1日当たりの新規感染者数の推移は横ばいであるものの、西部や南部を中心とする22州とプエルトリコで直近の14日間、増加傾向にある。

特に急な伸びを示しているのが、フロリダ州、アーカンソー州、オレゴン州、サウスカロライナ州、アリゾナ州などだ。米国全体で見てもいまだに1日2万5335人(6月13日)の新規感染者が発見されている。
第2波が予想通りの規模で現実のものとなれば、21年に日本で予定されている東京五輪への影響は必至だ。その現実味はいかほどか。五輪を開催するなら、どんな条件を満たす必要があるのか。IHMEの研究チーム主要メンバーのテオ・ヴォス教授に聞いた。
新型コロナウイルスの感染拡大当初から、多くの専門家が第2波を予想していました。具体的に第2波とはどのような現象を指すのでしょうか。
テオ・ヴォス教授(以下、ヴォス氏):第2波が第1波とは別物なのか、あるいは第1波が再び上昇することを指すのかは議論が分かれるところです。ただ一般には、最初の感染拡大が収まった後に再び感染拡大が起きることを言います。この2度目の盛り上がりを起こす要素は、いくつかあると考えられています。

1つが、こうした感染ウイルスの持つ「季節性」です。例えば、インフルエンザ。北半球にある米国では毎年1~2月に感染のピークが来て、7月には収まり、また8~9月に感染が徐々に拡大する。北半球ではこのサイクルですが、南半球では季節が逆転するのでサイクルも逆になります。
ではCOVID-19(新型コロナ感染症)はどうか。新型コロナは新しいウイルスなので、まだまだデータが十分とは言えない状況ですが、現時点での動きを見る限り、季節性を持つと考えられます。実際、ブラジルや南アジア、アフリカなどで感染拡大が深刻化しています。こうした事実からも季節性はあると言えるでしょう。
つまり、秋口に北半球で再び感染拡大が起こると考えるのが妥当です。
ニューヨークも安心できない
ヴォス氏:もう1つは、検査が全米に普及したことで見えてきた「地域性」です。
第1波で感染拡大が深刻だったニューヨーク州やニュージャージー州などの地域では今、感染者数が減少しています。こうした地域では、少なくとも今後の数カ月間は小康状態を保つでしょう。
一方、テキサス州やアラバマ州、カリフォルニア州などの地域では、感染による死者数の推移曲線が思ったほど下がらず横ばいで、そのうちのいくつかの地域では入院患者数がむしろ増えています。カリフォルニア州のある地域では、COVID-19の新規入院患者数が40%増えているところもあるほどです。
この事実が示すのは、米国で第1波がまだ終わっていない可能性です。
感染のホットスポットが人口の多い都市から地方へ移行したり、少し離れた地域に飛び火したりすることはよくあります。例えば、何かのイベントに「スーパースプレッダー」と呼ばれる強力な感染能力を持つ感染者が参加し、たくさんの人を感染させたとしましょう。その地域はたちまちホットスポットになります。
それがイベントではなく、病院や介護施設、工場で起こる可能性もあるでしょう。
こうした意味では、ニューヨークも決して安心できません。そもそも感染の爆発が起きたのも、ニューヨークという土地が磁石のように人をひきつけ、たくさんの訪問客が流入していたからでした。経済を再開させた後、また磁石のように人をひきつけるでしょうから、第2波の危険性はあると言えます。
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