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 「1日当たりの検査件数2万件を1週間前倒しで達成できそうだ」──。
 新型コロナウイルスの感染爆発が起きた米ニューヨークで、ビル・デブラシオ市長がこう話したのは2020年5月17日のことだった。目標を前倒しで達成できるとしたのが5月25日のメモリアルデー。毎年、夏に向けて人々の活動が活発になる時期だ。

 感染爆発を体験したこともあり、ニューヨークは経済活動の再開に向けて慎重な姿勢を保っている。アンドリュー・クオモ知事が3月22日に発令した「外出禁止令(Stay-at-home Order)」もいまだ解除されず、6月13日まで延長されている。

 ニューヨーク州での経済再開は4つのフェーズに分けて実施することになっている。第1フェーズの「製造業と建設業の活動再開」をスタートさせたのは、州に10ある地域のうちニューヨーク市を除く9つ。特に被害の大きかった同市ではいまだ再開の気配がなく、3月22日から時が止まったままだ。

 なお、第2フェーズは「小売りや不動産、金融」、第3フェーズは「レストランやホテル」、第4フェーズは「アートや教育、レクリエーション」の分野で活動が再開される。

 「巣ごもり生活」が10週目に突入し、そろそろストレスもたまっていた筆者は、経済再開に向けた「手触り」を体感したくてうずうずしてきた。そこで、今回から不定期に「ニューヨークで実際にやってみた」シリーズを立ち上げることにした。

 第1弾として取り上げるのが「検査」だ。検査体制の確立は、クオモ知事もデブラシオ市長も経済再開の必須条件として長く掲げてきた。誰でも気軽に検査を受けられるようになれば、感染者の特定もしやすくなり、経済再開のタイミングを早められる。新シリーズのテーマである「経済再開の手触り」にうってつけだ。

 日本にいる皆さんもご存じの通り、米国でも新型コロナの検査は大きく2種類ある。現時点で新型コロナに感染しているかどうかを見る「PCR検査」と、過去に感染していたかどうかを見る「抗体検査」だ。ニューヨークではPCR検査の対象を、すでに症状の出ている人や、医療従事者や食料品店の店員など人々の生活に不可欠なサービスを提供する「エッセンシャルワーカー」などに限っている。5月17日に、第1フェーズで活動が許された製造業や建設業の従事者にも広げられた。

 ただ抗体検査については5月初旬から、ニューヨーク市内で基本的には誰でも無料で受けられるようになった。

 「よし、抗体検査を受けに行ってみよう!」

 そう考えた筆者は自宅近くの検査所を調べ、さっそく行ってみることにした。ちなみに4月27日にクオモ知事が発表した抗体検査の陽性比率によると、ニューヨーク市は24.7%、実に4人に1人が感染していた計算になる。

 決行したのはメモリアルデー直後の5月27日、午後2時ごろだ。この日は最高気温が26℃と暖かく、外出禁止にもかかわらず数多くの人がソーシャルディスタンスを取りながら外のベンチなどに座り、春の日を楽しんでいた。

 筆者自宅近くの検査所を調べると、最も近いのが、予約なしで医療サービスを受けられるヘルスケア企業「シティMD(CityMD)」の診察拠点だった。3月までいつも使っていた地下鉄の駅の前にあった。

診察所に入る前にスマートフォンでグーグルマップを起動してキャプチャーした。マンハッタンのミッドタウンと呼ばれる地域にある
 

 筆者も今回初めて知ったのだが、米国のクリニックは予約が必須で、混雑していると具合が悪くてもすぐには見てはもらえないという。そんな不便さを解消しようと、医師のリチャード・パク氏が10年、ニューヨーク市で設立したのがシティMDという会社だ。

 300人以上の医師を雇用し、ニューヨーク州やニュージャージー州、ワシントン州に百数十拠点を構える。いわば「かかりつけ医」のチェーンといったイメージだ。ニューヨーク市など地方の政府と提携し、123拠点で新型コロナの検査を提供し始めた。こうした民間企業の検査実施が、市や州の検査拡大目標を支えている。

これがシティMDの診察所。ニューヨークは改修中のビルが多く、入居するビルも足場が組まれている状態だった
診察所の正面