「米国の人たちは東京五輪の開催についてどう思っているの?」
筆者が4月下旬から5月初旬まで日本に一時帰国していた時、最も多く受けた質問がこれだった。正直に言うと、帰国前まで米国に滞在していて、東京五輪・パラリンピックについて米国の政治家や著名人が声高に何か発言をするのを聞いたことがなかった。
そのため瞬時に質問に答えることができなかったのだが、米国に戻った直後、新型コロナウイルス対策のトップである米国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長がテレビ番組に出演し、注目に値する発言をしていたのを聞いた。
調べてみると、テニスの大坂なおみ選手や、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長の発言を取り上げた報道もあった。そこから見えてきたのは、日米のコロナ対策の違いから来る「日本には言えない米国の本音」だった。
日本政府は今、「米国は東京五輪・パラリンピックについて前向きな姿勢だ」との認識でいることだろう。ジェン・サキ米大統領報道官が5月25日、開催に向けた日本政府の努力を支持し続ける方針を改めて記者会見で示したからだ。だが、本音はどうだろうか。
この前日、米政府は米国民に対して日本への渡航を中止する勧告を出している。日本で新型コロナウイルスの感染が拡大傾向にあることを鑑みての決断だ。
サキ報道官は同じ会見で、日本政府が主導する五輪出場選手向けの厳格な対策の下にあれば、渡航は問題ないとして、米選手団を日本に派遣することも明らかにした。

一般人には渡航中止を勧告し、五輪選手は特別に渡航させる──。なぜこのような結論に至ったのか。
ここで米国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長の発言に注目したい。5月20日、米テレビ局CNBCのニュース番組に出演し、キャスターとこんなやり取りをしていた。
キャスター「日本ではワクチンの接種率が2%を下回っていますが、そんな状況で五輪を開催することを懸念しますか?」
ファウチ氏「そこまで低いワクチン接種率であれば、もちろん懸念します。ただ五輪を迎えるに当たって自国でどうするかを決めるのは、日本政府です。ですから私が願うのは、もっとたくさんの人が日本でワクチンを接種すること。なぜならそこまでの低い接種率は本当に懸念すべきだからです」
キャスター「試合をするのに安全な状況でしょうか? それともやはり心配ですか?」
ファウチ氏「私が懸念するのは、それだけ多くの、ワクチンを接種していない人が集まるという点です。でもそれは私が決断することではありません」
キャスター「そうですね」
ファウチ氏「そこをぜひ明確にしましょう。さもないと、私が意図していないように『見出し』を付けられてしまいますから(笑)」
キャスター「(笑)」
ファウチ氏「私が決断することではありません。日本が決めること。彼らは彼らが決めたことをやるだけです」
ファウチ氏の意図を正確に読み取るにはまず、米国がこれまで実施してきた新型コロナ対策の考え方を理解する必要がある。
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