認知症を患う母にどうしても会っておきたくて、ゴールデンウイークの休暇を利用して米ニューヨークから実家のある千葉市に一時帰国した。

 帰国する飛行機の出発前72時間以内のCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)検査の陰性結果に加え、ワクチン接種の証明書を携えての帰国。到着した成田国際空港での唾液による検査でも陰性と出た。それでも日本への渡航者全員には到着翌日から14日間の自主隔離が求められる。

 帰国者側からすると「検査をしていない日本在住者に比べてむしろ安全なのでは?」と感じるのも本音。だが一方で、東京五輪・パラリンピックを約2カ月後に控える日本政府の意気込みも感じられ、当然ながらすべての要請に従う前提で帰国を決断した。

 ところが成田到着直後から筆者に突きつけられたのは「穴だらけの水際対策」という現実だった。

搭乗ゲートに向かう。ワクチン接種の進む米国では徐々に飛行機の利用者が増えてきた。国内線も同じ列に並ぶため人数は多い

 帰国者への水際対策はニューヨークの空港(実際には近郊のニュージャージー州ニューアーク国際空港)に到着してすぐに始まった。

 「日本への渡航は特別な手続きが必要なので、自動ではなく人のいる窓口に行ってください。1つ上のフロアに特設されています」

 他の渡航者に紛れて自動搭乗手続きを進めていると、航空会社(筆者の場合は米ユナイテッド航空)の係員にこう案内された。

 言われた通りの場所に行くと、そこには短い列ができていた。日本だけではなく特別なプロセスを必要とする国に行く人たちをまとめて手続きする場所のようで、特に搭乗時間の迫る人は混乱した様子で係員とやり取りしていた。

 日本への渡航はここで質問票への記入が求められた。係員に提示されたQRコードをスマートフォンで読み取ると、厚生労働省が規定するウェブサイトに飛ぶ。そこで質問に回答すると、個別のQRコードが発行される。これを提示しなければ荷物も預けられない仕組みだった。

 荷物を預けてゲートに入り、飛行機に乗るまでは通常通り。ただ搭乗するや複数の書類が配られ、機内で記入しなければならなかった。一連の作業を通じ、提供を求められた情報をざっくりまとめると下記の通りだ。

  • 過去14日間以内にコロナ陽性者と接触していないかなど自身の健康状態
  • 日本での滞在先や空港からの移動手段
  • 自主隔離期間は日本政府や地方自治体に居場所を知らせることを誓う

 ちなみに4月下旬、筆者が乗ったニューアーク-成田便の搭乗者数は7人、うち3人が他国への乗り継ぎだった。

 成田空港に到着後は、まず他国への乗り継ぎの搭乗者、次に筆者を含む日本滞在者が機外に案内された。出ると係員が待ち受けており、同じ便に搭乗かつ日本滞在予定の4人が一緒に、長い道のりを歩いて水際対策の手続きをする空港内の別の場所に移動した。重い荷物を抱えて十数分間は歩いたように思う。

 まずは健康チェックだ。機内で書いた書類の一部と出国72時間以内に受けたPCR検査の結果を窓口の担当者に提出する。担当者は5~6人いたように記憶しているが、驚いたのはその「密集具合」だ。空いた窓口から順に呼ばれて列の先頭にいる搭乗者がそこへ行くと、左右の窓口で処理をしている別の搭乗者と両肩がぶつかるほどに近かった。窓口の担当者との間に透明の仕切りはあったが、搭乗者同士の間には何の仕切りもなかった。

 「日本にソーシャル・ディスタンスの概念はないのか? 健康チェックをする窓口なのに搭乗者の安全確保への配慮は?」と疑問を感じざるを得なかった。

 この1年強、ニューヨークでソーシャル・ディスタンスを気にしてばかりの日々を送ってきていたため、違和感しかなかった。正直、先が思いやられた。

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この記事はシリーズ「池松由香のニューヨーク発直行便」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。