接種後に筆者を襲った1つめの「悪夢」
外に出ると、雨は上がっていた。先ほどの後ろに座っていた女性ではないが、空気が一段とおいしく感じられる。「ああ、なんてすがすがしいんだろう」。この日の夜には、前の週に書いた特集の校了作業が控えていたが、あまりの開放感から「ちょっとくらいは」と数ブロックと離れていない商業施設に向かった。
「マンハッタン最後の大型再開発」といわれるハドソンヤード地区には19年3月に開業した商業施設があり、日本の「ユニクロ」や「無印良品」などがテナントとして入っている。筆者も時々、ここで衣類や雑貨などを調達しているのだ。
この商業施設もパンデミックで閉鎖されていたのだが、20年9月に再開された。しばらくはほとんどひとけのない状況だったが、最近は徐々に客数も増えているように思う。これもワクチン効果なのだろう。
ユニクロと無印をチェックし、なぜかチョコ入りのマシュマロを無印で調達して帰宅した。なんとなく仕事中に甘い物が食べたくなる予感がしていたからだ。ワクチンの副作用か少しふらふらする気もしたが、夢中で商品を見ていたこともあり、あまり気にならず気分は上々だった。
帰宅してさっそく特集の原稿を読み直す作業に入った。日本の編集部とオンラインチャットで随時、連絡を取りながら進めていった。そんなことをしていた午後9時ごろ、それはやってきた。副作用だ。

手が冷たくなり、全身の肌の内側がもぞもぞするような不思議な感覚がやってきたかと思うと、悪寒に襲われた。軽い吐き気もしてきた。
重要な作業を終えた直後だったので、なんとか特集は乗り越えられそうな気はしていたが、とにもかくにも気分が悪い。チャットに「悪寒がやってきました」とだけ書き残し、しばらくソファに横になった。
1時間ほど横になっただろうか。その間に熱がぐんぐん上昇し、37度5分まで上がった。熱が上がった後は逆に気分が良くなり、宙に浮いたような感覚になった。「これなら仕事ができそうだ」とむくっと起き上がり、再び校了作業に入った。
仕事に集中するにつれ副作用のことも忘れていたので、たぶん数十分後に熱は下がっていたように思う。この日はマシュマロをお供に朝方まで作業をしてから、数時間の仮眠を取った。
翌12日、目覚めはあまり良くなかった。腰が痛いような、節々がゾクゾクするような……。頭痛もしていたので、とりあえずタイレノールを飲み、その日はなんとかやり過ごした。
「あ、副作用が終わったな」と感じたのは、12日の夜になってから。急に体が普段通りに軽くなったので、自分の体がワクチンの攻撃に打ち勝ったことを知った。
「よくやった!」
自分の体を褒めてあげたい気分になり、湯船にお湯を入れてゆっくりとつかった。お風呂に入る気満々だった接種当日は結局、校了作業と副作用との闘いで、入りそびれていたのだ。
本当の「悪夢」がやってきたのは、改めて達成感に浸りながら就寝し、目覚めた翌朝、13日のことだ。
「え? もう打ったのに……」、驚がくのニュース
いつものように自宅でパソコンに向かい、遠隔で仕事をしてもらっている支局のアシスタントの女性とチャットで会話をしていると、こんなニュースが飛び込んできた。
「米当局がJ&Jのワクチン接種中断を勧告」
「え、え~~~っ!」
思わず声を上げてしまった。副作用のときでも出なかった冷や汗が急に出てきた。
「やっと副作用を乗り越えたところなのに、今さらそんなこと言わないで!」
中断の勧告を米疾病対策センター(CDC)が出したのは、米国内でJ&J製ワクチンを接種した18~48歳までの女性6人にまれな血栓症の症状が見られたからだ。いずれも接種から数週間以内に発症し、うち1人は死亡していた。
確認されている血栓の「まれ」というのには、2つの意味がある。1つは、J&Jのワクチンを接種した人が発症した血栓が脳静脈洞血栓症(CVST)と呼ばれるもので、症例として極めてまれだということ。
もう1つがJ&J製ワクチンを接種した人全体の中で、CVSTを発症した人の割合が非常に小さいということだ。米国ですでに700万人以上がJ&Jのワクチンを接種しているが、血栓の症例が確認されたのは同日夜時点で6人。確率としては100万人に1人よりも小さい数字になるのだ。
ではなぜ全員女性なのか。直接的な関係は分かっていないが、その日の夕方に放映されたCBSテレビのニュース番組で米国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長は、妊娠の可能性のある年代の女性の発症が多いことから「関連性はあるだろう」と話していた。
筆者は女性ではあるが、発症の可能性が高い18~48歳の年齢枠にギリギリ入ってはいるものの、(幸か不幸か)ど真ん中というわけではない。
さらにファウチ所長はこうも話していた。「非常に事例が少ないので心配しすぎるのは良くない」「ただ(ワクチンを打ってから抗体ができるまでの期間とされる)2週間が経過するまでは体調に注意を払うべきだ」
「きっと大丈夫。そうそう、心配しすぎは良くないし、健康的に暮らしていれば問題ないはず」
そう頭を切り替えた筆者。だが、この記事を執筆している14日、CDCは専門家による会合を開き、ワクチンと血栓症の因果関係を検証した上で接種を再開するかどうかの決断を下すことになっていたが、「情報が不十分」として決断を1週間から10日間、先送りした。
ここで「やはり安全性が確認できたので再開します!」ときっぱり決断してくれれば気も楽になったが、そうは問屋が卸さなかった。
しばらくは「もやもや期間」が続きそうだが、幸い、筆者の体調は良く、このままファウチ所長の言う「2週間」を乗り切れたら、晴れて新型コロナの抗体を手に入れられることになる。うれしいことにアシスタントさんからは、「血液をサラサラにする食品リスト」なるものが送られてきた。さっそくリストに載っていた納豆を晩ご飯に食べ、これまたリストに載っていたコーヒーを飲みながらこの原稿を書いている。
J&Jのワクチンを接種した皆さん、共に健康的な生活を心がけて接種後の2週間を乗り越えましょう! そして、日本でこれからワクチンを接種しようとしている方々、どうか必要以上に怖がらず、集団免疫を目指して歩を進めて参りましょう。
なお、筆者が接種したJ&Jと英アストラゼネカのワクチンで採用している技術は、日本でも高齢者を対象に接種が始まったファイザー製とは異なる。J&Jがファイザーやモデルナと副作用がどう異なるかなどの話は、また別の機会に取り上げられればと思う。
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3/14、4/5ウェビナー開催 「中国、技術覇権の行方」(全2回シリーズ)

米中対立が深刻化する一方で、中国は先端技術の獲得にあくなき執念を燃やしています。日経ビジネスLIVEでは中国のEVと半導体の動向を深掘りするため、2人の専門家を講師に招いたウェビナーシリーズ「中国、技術覇権の行方」(全2回)を開催します。
3月14日(火)19時からの第1回のテーマは、「特許分析であぶり出す中国EV勢の脅威」です。知財ランドスケープCEOの山内明氏が登壇し、「特許分析であぶり出す中国EV勢の脅威」をテーマに講演いただきます。
4月5日(水)19時からの第2回のテーマは、「深刻化する米中半導体対立、日本企業へのインパクト」です。講師は英調査会社英オムディア(インフォーマインテリジェンス)でシニアコンサルティングディレクターを務める南川明氏です。
各ウェビナーでは視聴者の皆様からの質問をお受けし、モデレーターも交えて議論を深めていきます。ぜひ、ご参加ください。
■開催日:3月14日(火)19:00~20:00(予定)
■テーマ:「特許分析であぶり出す中国EV勢の脅威」
■講師:知財ランドスケープCEO 山内明氏
■モデレーター:日経ビジネス記者 薬文江
■第2回開催日:4月5日(水)19:00~20:00(予定)
■テーマ:「深刻化する米中半導体対立、日本企業へのインパクト」
■講師:英オムディア(インフォーマインテリジェンス)、シニアコンサルティングディレクター 南川明氏
■モデレーター:日経ビジネス上海支局長 佐伯真也
■会場:Zoomを使ったオンラインセミナー(原則ライブ配信)
■主催:日経ビジネス
■受講料:日経ビジネス電子版の有料会員のみ無料となります(いずれも事前登録制、先着順)。視聴希望でまだ有料会員でない方は、会員登録をした上で、参加をお申し込みください(月額2500円、初月無料)
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