「ギガテキサス」は、テキサス州オースティンの中心部から東に車で30分ほど行った場所にある。21年8月にも現地を訪問したが、そのときはまだ骨組みしかなかった(関連記事「テキサスに『イーロン・マスクの街』? テスラ新工場に行ってみた」)。

 ウーバーで現地に到着したのは開所式当日、4月7日午後6時ごろだ。マスク氏のスピーチを含む屋外イベントは午後9時からだと聞いていたが、すでに大勢のテスラファンが周辺に群がり、中の様子をうかがっていた。

 工場にフェンスなど囲いはないが、敷地と公共道路の間に低い丘や溝が設けられていた。それほど険しくないので、歩いて渡ろうと思えばすぐに渡れる。ただイベント当日はテスラ車に乗った警備員が配備されていて、丘や溝を越えようとする人がいると、すぐに砂ぼこりをまき散らしながら走ってきて、元の位置に戻るよう促していた。まるでウシを追い立てるカウボーイのようだった。

 工場の北側にあるゲートに到着するや、筆者もそのファンの群れに加わった。すぐそばにいたアジア人4人組に話しかけると、同州ダラスから所有するテスラの電気自動車(EV)を数時間走らせてやってきたという。そして、その中の1人がこう教えてくれた。

 「僕らはみんなテスラ車とテスラ株を持っているんだ。僕は少ししか株を持っていないけど、あそこにいる彼はたくさん持っているのでアーリーリタイアメント(早期退職)ができたんだよ」

 少し離れた場所から戻ってきた当人に筆者が「早期退職したの? うらやましい!」と話しかけると、「大したことないよ。テスラのおかげさ」と肩をすくめた。

 北側のゲートから敷地の境界に沿って西側へと歩を進める。西側にはマスク氏がスピーチをする舞台など野外イベント会場があったため、多くの人がそうしていたのだ。

工場の西側から中の様子をうかがうファンたち
工場の西側から中の様子をうかがうファンたち

テスラに熱狂するファンの心理

 まず驚いたのは、ファン同士が初対面であるにもかかわらず、あたかも長年の友達のように仲良くしていることだ。筆者は彼らとは少し異なる動機で現場に来ていたものの、すぐに仲間として温かく迎えてくれた。

 在住地も実にさまざまだった。自動車で4時間ほど南にあるテキサスの小さな街から来たという人もいれば、コロラド州デンバーやワシントンDCから飛行機でやって来た人もいた。その中の1人、デンバーから来たトニーさんといつの間にか仲良くなり、行動を共にするようになった。

 トニーさんもまた、テスラ車とテスラ株を所有し、早期退職したファンだった。デンバーの自宅のガレージにはクラシックカーを含む5台が鎮座する大の車好き。うち1台がテスラの低価格セダン「モデル3」で、23年に出荷が予定されている同ピックアップトラック「サイバートラック」もすでに予約購入しているという。

 車好きが高じてテスラにはまったのは17年。少しずつ株を継ぎ足し、娘と息子もほぼ独立しているので、ぜいたくさえしなければ十分に余生を送れる資産を得た。今回のオースティンへの旅費も、テスラ株を別のもっと安い株に置き換えて得た利益で工面したそうだ。

 ちなみに同社の株価は、5年前(17年4月7日)の60.51ドルから、22年4月13日現在までに1022.37ドルまで上がっている。

 トニーさんの年齢は筆者よりも少し上の51歳。普通ならまだ働き盛りの年齢だ。退職したといっても、元の勤務先である新聞社でわずかな時給をもらいながら働き、若手の教育を続けているという。「何もしないのは性に合わないから」(トニーさん)だ。

 「あなたは?」と聞いてくるので、「いまだにあくせく働いているよ」と笑いながら答えると、あきれ顔でこう言った。

 「テスラ株はこれからもっと上がる。EVの需要が増えるのはまさにこれからだからね。あなたも買ったら? もっと人生を楽しまないとつまらないよ」 

 このとき、テスラファンの心理を本当の意味で理解した気がした。

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