「やっぱりダメだったか……」。喉から手が出るほど欲しかった招待状は、開催日2日前になってもついぞ手に入らなかった。

 米テスラが2022年4月7日にテキサス州オースティンの新工場「ギガテキサス」で開催した開所式。イーロン・マスクCEO(最高経営責任者)のスピーチはもちろん、花火の打ち上げやバンドの生演奏、新型車両の展示や製造ラインを満喫できるという一大イベントだ。

 既存のメディアは一切呼ばれず、招待者を限定。テスラは少なくとも1年半前に社内のPR部門を解散し、既存メディアからの取材は受けなくなっていた。イベントにも、テスラファンのユーチューバーや工場関係者、テスラ車オーナーだけが招かれていた。

 テスラ工場の取材は、筆者が3年前に米国に赴任してからずっと夢見てきたことだ。製造業向け技術誌「日経ものづくり」に約7年間在籍し、その前に所属していた経営誌も含めると20年弱、工場カイゼンの現場を取材してきた。

 テスラの最新工場はどんな設備を導入し、どのようなモノ作りをしているのだろう……。そう想像するだけで勝手に胸が高鳴った。

 何度も同社PR部門に取材依頼のメールを送ってきたが、毎回、なしのつぶてだった。オーナー向けの工場見学の申込先にも、思いの丈をしたためてメールを送ったが、返事は来なかった。

 だからこそ今回のギガテキサス開所式は何としても行きたかった。招待状は1枚につき本人ともう1人が使えると聞いたので、オースティンの地元投資家やテスラ車を所有する知人などに問い合わせてみたが、誰も招待されておらず望みは絶たれた。

 悩んだ末、とにかく当日、現場に行ってみることにした。翌日にオースティンのテスラ車オーナー団体が開くイベントのチケットは購入できていたので、少なくともそこでオーナーやユーチューバーたちの声を拾えるとも踏んでいた。

 そして迎えた4月7日。「いざ出陣!」とニューヨークからオースティンへ飛び、現場でユーチューバーやテスラファンたちと触れ合う中で見えてきたのは、テスラが熱狂的なファンを生む本当の理由と、延べ床面積1000万平方フィート(約92万9000m2)という巨大工場の恐るべき実力だった。

開所式ではバンドの演奏などがありロックコンサートのようだった。闇夜に浮かび上がるテスラの新工場「ギガテキサス」
開所式ではバンドの演奏などがありロックコンサートのようだった。闇夜に浮かび上がるテスラの新工場「ギガテキサス」

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