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冷凍トラックが臨時の遺体安置所に

 ラノッテ氏によると、例年、州内の年間死者数は15万5000人程度で、単純計算すると1日の死者数は425人となる。先に触れた「新型コロナによる1日当たりの死者700人」というのは、この通常の死者数に加算される数字だ。つまり、感染爆発により通常に比べて死者の数が約2.5倍に膨れ上がった計算になる。

 葬儀システム崩壊の1つめは、圧倒的な量の増加による遺体安置所不足だった。

 まず米国における通常の葬儀の流れから見ていく。病院で亡くなる場合とそうでない場合、また信仰する宗教などによって異なるが、基本的には下記の流れで進む。ラノッテ氏によると、全てを終了するまでには死から通常、3~5日を要するという。

  1. 病院の遺体安置所(自宅で死亡した場合は近隣にある市の遺体安置所、検視が必要な場合は市の監察医務局へ)
  2. 家族の依頼で葬儀場の担当者(Funeral Director)が遺体を引き取り、葬儀場へ搬送
  3. 葬儀の執行
  4. 火葬する場合は火葬場(全体の約半分が火葬という)
  5. 墓地に埋葬

 「変化が起きたのは3月中旬あたりだった」とラノッテ氏は振り返る。一部の病院の安置所がいっぱいになり、市の監察医務局が冷凍トラックを各地の病院に配備するようになった。葬儀事業者の遺体収容が追いつかなくなったためだ。市は45台の冷凍トラックを用意し、そこを遺体安置所の代わりとした(ニューヨーク・タイムズの関連記事)。

 葬儀場も遺体であふれた。米タイム誌によると、4月初旬、ニューヨーク市ブルックリン地区の葬儀場では、20の遺体が地下室に収容され、さらに十数の遺体が別棟の教会に安置されていたという。いずれも冷房を利かせているだけの通常の部屋だ。

遺体に「お別れ」もできない現実

 葬儀崩壊の2つめは、葬儀事業者の圧倒的な人手不足だ。

 数が増えたからといって、1件1件の葬儀をおろそかにすることはできない。故人をしのぶにふさわしい葬儀はどのようなものかを家族と協議して準備し、遺体に適切な処理を施して納棺するのも相応の時間がかかる。

 大きな集会は禁じられているため、葬儀は家族だけのごく少人数のものだけに限られる。だが、その家族でさえも常に「社会的距離」を取ることが義務付けられている。

 複数の家族が同じ日に実施する場合は、動線を個別に確保し、さらに1件の葬儀が終わった後は部屋の家具や装備品など全ての消毒作業が必要になる。病院が抱えているのと、全く同じ問題に葬儀場も直面しているのだ(病院での問題は日経ビジネス電子版の連載「一介の外科医、日々是絶筆」の4月9日付記事に詳しい)。

 実は、ニューヨーク州では遺体と家族の間でも6フィート以上の社会的距離を保たなければならないという決まりがある。そのため家族は遺体に近づくことすらできない。遺体安置所からの引き取りから墓地での埋葬まで、全ては葬儀事業者がほぼ単独で進めることになるのだ。

 「ご家族はクルマの中からご遺体に別れを告げたり、埋葬も葬儀事業者だけで行って墓地の写真を撮って家族に送ったりすることもある」とラノッテ氏。冒頭でデルーカ氏が言っていたように、葬儀事業者は朝から晩まで働いている。それでも全く時間が足りない状況に陥っている。

 これを受けニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事は4月9日、同州外のライセンスを持つ葬儀事業者も州内でサービスを提供してもよいとする「知事令」に署名すると発言した。

 また葬儀システム全体の中では火葬場も混雑のためネックになっていたが、4月初旬からニューヨーク市の規制が緩和され、夜間も火葬業務をしてもよいことになっている。