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 新型コロナウイルスの感染爆発が複数都市で起きている米国。感染拡大を防ぐため労働者の9割が在宅勤務を強いられる中、「エッセンシャル・ワーカー」と呼ばれる人々による雇用企業への抗議運動が各地で勃発している。

 エッセンシャル・ワーカーとは、州や市が発令した外出禁止令の例外として勤務を許されている、病院や介護施設などの医療機関や公共交通機関、生活必需品の工場や物流、販売に従事する人たちを指す。「あなたたちは私たちの英雄」──。ニューヨーク市内の住宅街では毎日午後7時になると、そんな彼らをたたえる拍手喝采が鳴り響く。

 だが実際の状況は、「英雄」の称号だけでは片付けられないほど過酷だ。マスクや手袋といった「PPE」と呼ばれる防護具は、感染者と直接対峙する医師や看護師、消防隊員などへの提供が優先されている。それも十分に行き届いていない中、製造や小売り、配達業務に就く労働者たちは、ゴミ袋をかぶったりバンダナを口元に巻いたりして、しのいでいるのが実情だ。

 人々の生活を支える労働者たちが、PPEの配布などを訴えて抗議運動を起こし始めたのは、2020年3月中旬頃からだ。下の表がその主な例。中でも3月30日、ニューヨーク市スタテンアイランド地区にある米アマゾン・ドット・コムの配送倉庫で起きた抗議運動は、全米で大きな注目を集めている。

 
民間企業のエッセンシャル・ワーカーが起こした主な抗議運動

 新型コロナの感染拡大の後、アマゾンの倉庫の中で何が起きていたのか。抗議運動を主導したクリス・スモールズ氏(31歳)に聞いた。アマゾンの主張はスモールズ氏のそれと異なるため、同社の見解も併せて取り上げる。

 未曽有の危機に直面した時、企業は利益を取るのか、従業員の安全を取るのか。「後者」と言うのは簡単だが、実際に行動に移すのは決して容易ではないことをアマゾンの事例は示唆している。

3月30日、抗議運動をするクリス・スモールズ氏。4月6日にも2回目を決行した(写真:Spencer Platt / Getty Images)

アマゾンから解雇が言い渡されたのはいつですか。

クリス・スモールズ氏(以後、スモールズ氏):3月30日の午後4時半頃です。理由は、私が新型コロナに感染している同僚と接触したにもかかわらず、「14日間の自主隔離」のルールに従わなかったということでした。私自身は解雇の理由は別にあると考えています。

 新型コロナに感染した同僚と会ったのは3月24日の午前9時頃でした。そのときはまだ感染が分かっていなかったのですが、目が血走っていて具合が悪そうだったので、すぐに自宅に帰るよう促しました。この同僚は後に感染が確認されたので、あのときに自宅に帰して本当によかったと思っています。そうしていなかったら、その後、10時間は働き続けて、数多くの人を危険にさらしていたでしょう。

 その2時間後、私が勤務していた倉庫で初めての感染者が確認されました。

 実は3月初旬から、複数の同僚が体調を崩していました。体のだるさを訴えたり、熱を出したりしていて、中には倉庫内で嘔吐(おうと)する人もいました。嘔吐していても、マネジャーたちは清掃員に片付けさせて、すぐに別の従業員に同じ場所で働かせていました。「狂っている」と思いました。