1000床の巨大船でもまかなえない患者数

 理由は自明。1000床の病院船を迎えてもなお、想定される病床数が圧倒的に足りないからだ。

 3月30日にニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事が発表したデータによると、同州の感染者数は6万6500人、死者は前日から253人増えて1218人に上った。州内で入院している新型コロナ感染症患者の数は9500人、うち2300人が集中治療室(ICU)で治療を受けている。ICUにいるのは人工呼吸器などにつながれた重篤な患者だ。

 ニューヨーク市の保健当局によると、同日時点の市内の感染者数は3万8087人、死者は前日から124人増えて790人だった。

 市内にある病床はICUも含めて全体で約2万床。専門家の試算では、これを6万床にまで増やさなければ新型コロナ感染症の患者を収容しきれないという。そのピークがやってくるとされるのは5月初旬。圧倒的に数が足りない上に時間もない。

 「1000床はもちろんありがたい。だが、我々が求めているのは万のレベルで、マグニチュードが違う。これからも連邦政府に支援を強く求めていく」と同市長は話した。

会見会場の外でプラカードを持ってコンフォートの来港を激励する市民
会見会場の外でプラカードを持ってコンフォートの来港を激励する市民

既存の病院は全てICUに

 ではこの不可能とも思える病床不足を州や市はどう解消しようとしているのか。下の表がその第1段階の計画だ。今回の病院船に加え、大型会議場のジェイコブ・ジャビッツ・コンベンションセンターに約3000床を設置するなど、州内の数カ所に臨時病院を設置していく。

ニューヨークの州や市が予定している臨時病院の設置場所と病床数、開業時期
ニューヨークの州や市が予定している臨時病院の設置場所と病床数、開業時期
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 デブラシオ市長によると、すでにある病院の2万床はほぼICUに変え、それ以外の新たに設置した場所で比較的症状の軽い新型コロナ感染症患者や、それ以外の病気で入院する患者の治療をする。「特定の数カ所を、症状の軽い新型コロナ感染症患者を集中的に見る施設にするかもしれない」(同市長)という。感染拡大の可能性を少しでも減らすためだ。

 さらに既存の病院内の病床数も、空いたスペースに追加のベッドを置くなどして1.5倍に増やす計画だ。うまく増やせたとして3万床、上記の臨時病院の病床を加えても4万床弱にしかならない。

 患者をスクリーニングして症状に合わせて適切な施設に搬送するのも容易ではないだろう。現時点では地元の公立・私立の病院やジャビッツ・センターなどの臨時病院が参加する委員会「ホスピタル・エグゼクティブ・コミッティー」が患者をスクリーニングし、症状に合わせて適切な施設に移す予定だというが、現場は混乱が見込まれる。

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