(写真:Spencer Platt / Getty Images)

 ニューヨーク市場がリーマン・ショック級の急落に見舞われた。3月9日、ダウ工業株30種平均は前週末比2013ドル安の2万3851ドルで終え、下げ幅は過去最大を記録した。主要指数は軒並み7%以上下落。S&P500種株価指数は新制度が始まって初めての「サーキットブレーカー」が作動し、15分間、株の取引が強制的に中断された。

 「こんな日は数十年のキャリアの中で初めてだ」。リポーターや投資機関のアナリストたちは、あぜんとした表情で口々にこう語った。「Markets in Turmoil(混乱する市場)」。マーケット情報を得意とするCNBCが同日、こんなタイトルの緊急特別番組を放映し、専門家たちは興奮した口調で市場の今後を予想した。

 なぜこれほどの大暴落が起きたのか。識者の見解はさまざまだが、大きく3つの理由に集約できる。

 第1の理由は、新型コロナウイルスの感染拡大が欧米で本格化したことによる経済活動停止への恐怖だ。第2が、6日にサウジアラビアとロシアの原油減産協議が決裂したことで起きた石油価格の急落。最後が、市場取引が電子化した現在でも金融関係者が集まる「中心地」のニューヨークで感染者が急増していることから、関係者がより身近に危機感を抱き始めたことだ。

 現地時間9日夜時点で総じて多いのは、第2の理由を最も大きな要因として挙げる専門家たちだ。

 この日、株価の下落が際だったのが銀行株だった。バンク・オブ・アメリカは前週末比14.7%安、JPモルガン・チェースが同13.6%安、シティグループが同16.2%安。2008~09年のリーマン・ショック時を思い起こさせる下落ぶりだ。米大手銀行が資金を貸しているポートフォリオ企業のうち、一定の割合(といっても数%程度)を石油・ガス会社が占めている。石油価格の急落で石油・ガス会社の業績が悪化し、銀行への返済も滞れば銀行の業績を悪化させる要因となる。

 銀行の体力が弱まれば、その影響は銀行から資金を調達している企業にも及ぶ。「景気後退期(リセッション)へ突入するのか」。そんな不安が関係者の脳裏に浮かんでもおかしくはない。ただ現時点では、経済の健康状態がそこまで悪いかどうかの判断材料が十分にない。「企業の業績悪化」「国民の消費活動の脆弱化」の2つがまだ表に出てきていないからだ。

トランプ大統領の負けられない戦い

 では次に何が起こるのか。現在、この答えを持っている専門家はいないが、注目されるのがドナルド・トランプ政権の次の行動だ。

 トランプ大統領は9日、関係者を集めて緊急会議を開き、経済対策について話し合った。同日午後6時過ぎ(米国東部時間)に記者会見を開き、「詳細は明日、発表するが、ペイロールタックス(給与税)の減税、時給で勤務する労働者への支援、中小企業の資金調達への支援、航空やクルーズ船、ホテルなど特定業界への支援を考えている」と明かした。

 また大統領は、最後に念を押すように「明日、いくつかの重要な会議を終えたら記者会見を開き、経済対策のステップについて話す。対策は大規模になる」と締めくくった。米メディアはこの含みを持った発言から「現時点で明かしている対策だけではなく、もっと大きな景気刺激策を発表するのではないか」と予想している。

 ペイロールタックスの減税などは、「今、最も市場が求めるワシントンからの支援」(市場関係者)だ。米連邦準備理事会(FRB)が3月3日に緊急利下げに踏み切った日、株式市場が上昇するどころか下落したのは、利下げがもはや景気刺激策として機能しない段階にあることを示していた。新型コロナウイルスの感染拡大という、投資家たちが予想だにしなかった外的要因が発端なだけに、より直接的で即効性の高い対策が求められていた。

 トランプ大統領にとっても、11月に大統領選を控える今、危機管理での失態は許されない。切れるカードは全て切り、景気後退だけはなんとしても避けようとするはずだ。市場が見つめるのは、10日にトランプ大統領が切るとみられるカードが負の連鎖を断ち切れるかどうか。世界のマーケットの行方もそこにかかっている。

この記事はシリーズ「池松由香のニューヨーク発直行便」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。