ロシアによるウクライナ侵攻で世界が緊迫する中、地上から遠く離れた宇宙でも米国とロシアのにらみ合いが続いている。

 関係悪化を特に決定づけたのが、2021年11月15日に起きた、ある事件。ロシアが敵国の衛星撃破を想定して実施した「衛星破壊実験」だ。これにより宇宙には、追跡できる大きさのものだけで1500以上のデブリ(宇宙ごみ)が発生。この大量のデブリが上空約400kmの軌道を周回する国際宇宙ステーション(ISS)を破損する恐れがあったため、乗組員は一時的にシェルター避難を余儀なくされている。ちなみにこのとき、ISSには米国から4人、ドイツから1人、ロシアから2人の計7人が搭乗していた。

2021年9月に宇宙基地を訪問し、ロシアの国営宇宙開発会社ロスコスモスのロゴージン社長の話に耳を傾けるプーチン大統領(写真:ロイター/アフロ)
2021年9月に宇宙基地を訪問し、ロシアの国営宇宙開発会社ロスコスモスのロゴージン社長の話に耳を傾けるプーチン大統領(写真:ロイター/アフロ)

 この出来事を受け、米国務省のネッド・プライス報道官は会見で「ロシアのこの危険で無責任な行為は、宇宙開発活動の持続可能性を危うくしたばかりでなく、宇宙の武装化に反対の立場を取るロシアの主張がいかに不誠実で偽善的であるかを示した」と非難した。

 ウクライナ侵攻は、この約3カ月後のこと。ロシアのウラジミール・プーチン大統領の頭の中にはすでに、侵攻の具体的な計画が出来上がっていたのかもしれない。

 地上戦を優位に進める上で、宇宙の存在は欠かせない。21年3月8日付の記事「宇宙空間で一触即発、米国を本気にした中国の挑発行為」でも取り上げた通り、宇宙に浮かぶ全地球測位システム(GPS)などの衛星は、地上戦での指揮統制やピンポイントの空爆を実現するのに必要不可欠だからだ。

 ロシアは14年のクリミア侵攻でも、インターネットを使ったサイバー攻撃に加え、GPS波を妨害してウクライナ軍の軍事力を弱める「電子戦」を繰り広げた。今回のウクライナ侵攻でも同じ手を使っている。

 宇宙を制す者が地上を制す――。「ロシアは欧米諸国への脅しとして『ロシアには敵国の衛星を撃墜する手段がある』と改めて印象づけるために実験を意図してやったのだろう」とは、米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)で宇宙安全保障などを担当するトッド・ハリソン氏の指摘だ。

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