「メッセンジャーRNA(mRNA)はライフサイエンス業界にIT(情報技術)革命をもたらす画期的技術。手書きからパソコンに変わるくらいインパクトがある」。米モデルナCEO(最高経営責任者)のステファン・バンセル氏は、興奮気味にこう話す。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を受け、米マサチューセッツ州ケンブリッジに本社を置く小さなバイオベンチャーは、世界にその名をとどろかせた。
現在の姿だけを見れば、2010年の設立からたった11年で売上高184億ドル(21年通期実績)の大企業へと変身した「シンデレラ」に映る。だが実際は、たまたま現れたチャンスをつかんだのではない。成功は設立前から組み込まれていたものだ。

背景にあるのは、誰でも再現可能とされる「革新を生む方程式」。モデルナはこれによって生み出された最初の成功事例だ。方程式を見ていく前にまずモデルナがどんな革命を起こそうとしているかを見ていこう。
mRNAは「創薬の工業化」
これまでのワクチン開発は、ウイルスを増殖してニワトリの卵の中に注入してつくるアナログの手法が用いられてきた。1つひとつ手作りなので、新しいウイルスが登場するたびに長い開発期間が必要だった。通常、普及までに5~6年、臨床試験(治験)まででも1年以上はかかる。
一方のmRNAはデジタルだ。体の中の細胞が特定のたんぱく質をつくるのに必要な、いわば「デジタルコード」で、4種類の化学物質が鎖状につらなっている。これを体内に入れると、細胞がコードに従ってせっせとたんぱく質をつくる。同社のワクチンでは、ウイルス表面にあるイガイガの突起をコードによって体内でつくらせる。すると体が抗体をつくる。無害化したウイルスの突起のみなのでワクチンで感染することはない。
このコード(化学物質の羅列)を書き換えるだけで欲しいたんぱく質を自在につくれるため、開発期間を短くできる。同社の新型コロナワクチンの場合、治験まで約1カ月半、普及に1年弱でこぎ着けた。
バンセル氏は一連の仕組みをスマートフォンに例えてみせた。mRNAを細胞に届ける仕組みが「スマホ」。これさえ完成すれば、あとはウイルスの種類によって「アプリケーション」をつくって搭載すればいい。デジタルなので簡単にアップデートできるため、季節や地域ごとに登場する変異に合わせて素早く対応できる。
現在は予防や治療に関連する44のアプリの開発が進行中で、今後18カ月間でさらに40を追加するという。新型コロナ流行前の19年時点でも20あった。つまり、パンデミック勃発時には「準備が整いすぎているくらい整っていた」(モデルナ共同創業者のヌーバー・アフェヤン氏)のだ。
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3/14、4/5ウェビナー開催 「中国、技術覇権の行方」(全2回シリーズ)

米中対立が深刻化する一方で、中国は先端技術の獲得にあくなき執念を燃やしています。日経ビジネスLIVEでは中国のEVと半導体の動向を深掘りするため、2人の専門家を講師に招いたウェビナーシリーズ「中国、技術覇権の行方」(全2回)を開催します。
3月14日(火)19時からの第1回のテーマは、「特許分析であぶり出す中国EV勢の脅威」です。知財ランドスケープCEOの山内明氏が登壇し、「特許分析であぶり出す中国EV勢の脅威」をテーマに講演いただきます。
4月5日(水)19時からの第2回のテーマは、「深刻化する米中半導体対立、日本企業へのインパクト」です。講師は英調査会社英オムディア(インフォーマインテリジェンス)でシニアコンサルティングディレクターを務める南川明氏です。
各ウェビナーでは視聴者の皆様からの質問をお受けし、モデレーターも交えて議論を深めていきます。ぜひ、ご参加ください。
■開催日:3月14日(火)19:00~20:00(予定)
■テーマ:「特許分析であぶり出す中国EV勢の脅威」
■講師:知財ランドスケープCEO 山内明氏
■モデレーター:日経ビジネス記者 薬文江
■第2回開催日:4月5日(水)19:00~20:00(予定)
■テーマ:「深刻化する米中半導体対立、日本企業へのインパクト」
■講師:英オムディア(インフォーマインテリジェンス)、シニアコンサルティングディレクター 南川明氏
■モデレーター:日経ビジネス上海支局長 佐伯真也
■会場:Zoomを使ったオンラインセミナー(原則ライブ配信)
■主催:日経ビジネス
■受講料:日経ビジネス電子版の有料会員のみ無料となります(いずれも事前登録制、先着順)。視聴希望でまだ有料会員でない方は、会員登録をした上で、参加をお申し込みください(月額2500円、初月無料)
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