「2025年に米中戦争が起こる」と予見する米空軍高官の内部メモがメディアに漏れ、米国内で大きな話題になった。米政府のお抱え研究者が作成したリポートでも同様の予測結果があり、根拠のない噂と片付けられない。危機回避には対話が不可欠だが、選挙前の米政権は弱腰を見せられない事情がある。手立てはあるのか。

 「間違っていることを願うが、私の直感では我々は2025年に(中国と)戦うことになる」

 1月下旬、米空軍航空機動司令部のマイク・ミニハン司令官が同僚に送った内部メモがメディアに漏れ、米国内で大きな話題となった。その数日後の2月2日、米国防総省は中国の偵察気球の米領空飛来を発表。米軍機がサウスカロライナ沖で気球を打ち落とし、その後も3つの飛行物体を撃墜するなど一連の「気球騒動」が巻き起こった。

米軍はサウスカロライナ沖で中国の偵察気球とみられる飛行物体を打ち落とし、翌日の2月5日に回収した(写真:Mc1 Tyler Thompson/Us Navy/Planet Pix/ZUMA Press/アフロ)
米軍はサウスカロライナ沖で中国の偵察気球とみられる飛行物体を打ち落とし、翌日の2月5日に回収した(写真:Mc1 Tyler Thompson/Us Navy/Planet Pix/ZUMA Press/アフロ)

 国防総省は「(同司令官の発言は)国防総省の見解を代表するものではない」と強調したが、同司令官は19年からの2年間、インド太平洋軍副司令官を務めた人物。全く根拠のない仮説とも思えない。

 ワシントンの米政府関係者に所感を聞くと、「25年前後に米中戦争が起こる可能性を示した内部リポートは確かに存在する」と教えてくれた。米政府は独自の研究部隊を持ち、未来の地政学的リスクを予測し、軍戦略の参考にしているという。

 未来予測に用いる手段の一つが「囚人のジレンマ」で知られるゲーム理論だ。共犯者2人を別の部屋に入れ自白を迫る。この時、一人しか自白しなければ、例えばその囚人の刑期を無くし、もう一人は10年とする。両方が自白しなければ刑期はいずれも2年、両方とも自白すれば5年となる。「もう一人が自白したら……」と疑心暗鬼になるため結局、2人とも白状して最良の結果が得られない。敵対の構図を「非協力ゲーム」と呼ぶ。

シミュレーションでは米国率いる同盟軍が勝利

 先の関係者によると、この理論を応用して習近平国家主席の性格なども加味しながら予測モデルを作り、例えば人口や輸出入額の推移などあらゆる統計データを入れると、いつごろ、何%の確率で衝突が起こるかを予測できるという。

 「内部リポートでも25年前後で米中衝突が起こる可能性が高いと結論づけられていたが、ミニハン司令官の発言との関連性は分からない」と説明する。

 偵察気球はまさに中国の疑心暗鬼の象徴だ。別々の部屋に入れられた囚人のように、断絶が深まれば深まるほど相手の考えていることが分からなくなり疑う気持ちが出てくる。

 仮に衝突が起こるとしたら、どうなるのか。米戦略国際問題研究所(CSIS)が1月に公表した台湾有事シミュレーションでは、26年に戦争が起こると仮定し、24回のウォーゲーム(戦闘シミュレーション)を実施。米国・台湾・日本の同盟軍が勝利する可能性が高いとの結果が出た。

 だがこれは「米国が中国の攻撃から数日以内に必要な戦力を装備して駆けつける」「日本の米軍基地を活用する」などの条件付き。問題はその代償だ。

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