米ルーシッド・モーターズのアリゾナ州の工場
米ルーシッド・モーターズのアリゾナ州の工場

 米高級EV(電気自動車)スタートアップのルーシッド・モーターズがいよいよ上場しそうだ。米ブルームバーグは2021年2月20日、23日にも同社が特別買収目的会社(SPAC)「チャーチル・キャピタル・コープIV」との合併を通じて上場する可能性が高いと報じた。

 最初に上場の可能性が報じられたのが同年1月11日だった。同SPACの直前の株価は10ドル3セント。その後、株価は上昇を続け、2月16日にロイター通信が「2月中にも上場か」と報じると、同日だけで約30%も値を上げた。

 19日金曜日の終値は52ドル94セント。20日の報道を受け、22日月曜日にはさらに株価が高騰すると考えられる。

 実はこのルーシッド、EVメーカーといえどもまだ1台もEVを売っていない。設立は07年。テスラ元幹部のバーナード・ツェ氏が車載バッテリー開発会社として立ち上げた。独自開発の高性能バッテリーを武器に高級EVを開発すると宣言したのが16年だ。同社初の市販モデル「ルーシッド・エア」は21年内に約8万ドルで販売予定だ。

約8万ドルで販売予定の高級EV「ルーシッド・エア」
約8万ドルで販売予定の高級EV「ルーシッド・エア」

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 ルーシッドの合併時の評価額は150億ドルと見られる。実績のないルーシッドが、なぜここまで投資家の評価を高めているのか。それは同社が米国産のクルマ、いわゆる「アメ車」が再び世界を席巻するかどうかの鍵を握る存在だからだと考えられる。

上場前から「一流への道」を準備

 米アップルが自動運転EVを開発中であることは、同社は認めていないながらも業界ではもはや周知の事実だ。SPAC買収の報道が出る前の20年末、このアップルがルーシッドと買収または提携の交渉をしているとの噂がSNS(交流サイト)で広がっていた。

 両社が実際に交渉をしていたかは不明だが、ここで動いたのが、20年にSPAC「キャピタル・チャーチ・コープIV」を立ち上げていた米シティグループ元幹部のマイケル・クライン氏だった。

 同年12月、同氏は同SPACを使ってAT&T傘下の米ディレクTV入札に動いていたが、照準をルーシッドに切り替えたとみられる。

 同SPACの運営パートナーにはアップル元CDO(最高デザイン責任者)のジョニー・アイブ氏とフォード・モーター元CEO(最高経営責任者)のアラン・ムラーリー氏らが名を連ねる。ルーシッドを「一流のEVメーカー」として巣立たせる準備を、水面下で着々と整えてきたわけだ。

 では今後、ルーシッドはどんな戦略でEV市場に食い込もうとしているのか。同市場はテスラはもちろん、21年以降、大手自動車メーカーも続々とモデル投入を予定している「激戦区」だ。

 考え得る今後のシナリオは大きく2つある。一つは、ルーシッドを強力なEVメーカーに育て、単独でテスラやアップルと肩を並べながら世界EV市場のパイを勝ち取っていく方向だ。

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