ジョー・バイデン米大統領は2022年2月17日、数日以内にロシアがウクライナに侵攻する可能性が高いと話し、同日の米株式市場ではダウ工業株30種平均が今年最大の下落率を記録するなど動揺が広がった。

ウクライナ情勢緊迫を受け2月17日、米ニューヨークの国連前でウクライナを支持するデモが実施された(写真:AFP/アフロ)
ウクライナ情勢緊迫を受け2月17日、米ニューヨークの国連前でウクライナを支持するデモが実施された(写真:AFP/アフロ)

 そんな中、米東部時間の同日朝、国際政治学者で米ユーラシア・グループ社長のイアン・ブレマー氏は訪問先の独ミュンヘンからオンラインで記者会見を開き、これから起こりうるシナリオや中国と台湾、北朝鮮、米株式市場などへの影響について見通しを語った。その要点をまとめる。

 なお、内容はブレマー氏の会見が開かれた米東部時間2月17日朝時点のものであり、その後、情勢が変化する可能性もあることをご了承いただきたい。

国際政治学者のイアン・ブレマー氏(写真=Maki Suzuki)
国際政治学者のイアン・ブレマー氏(写真=Maki Suzuki)

 私は今、(2月18~20日に開催される)ミュンヘン安全保障会議に出席するためドイツに来ている。思い起こせば2年前、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が生じる前に対面で開かれた最後の安全保障に関する国際会議が、このミュンヘン安全保障会議だった。

 2年前、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国が置かれていた状況は「落ち着きがない(restlessness)」だった。当時、米大統領選を戦っていたトランプ前大統領は「NATOは時代遅れだ」と発言。加盟国同士の結束力は不安定で、それがさらなる心配や互いへの無関心さを生み出していたように思う。

 あれから2年が経過したが、会議に出席するメンバーから、その落ち着きのない感覚は消えていない。だが今回のウクライナを巡る米国とロシアの対立で、それは「無力感(helplessness)」に近づいていると感じる。

 今、我々が直面しているのは、非常に大きな権力の対立だ。今年のミュンヘン安全保障会議で話し合われる議題は、NATO加盟国同士の対立ではなく、結束した米国と欧州同盟国がどうロシアの脅威に立ち向かうかという点になるだろう。

 いかに効果的に、連携を取りながら、危機に対応するか。今や加盟国の誰もが、ロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵攻準備が「はったりなどではない」ことを理解している。NATOが存続し続けるためには一定レベルの緊張は免れないが、(戦争のような)非常に危険な事態を避けるには緊張をなんとかして和らげる必要がある。

ロシアを前に団結する欧米勢力

 危機の内容に触れたい。

 ここ数年間の米国内政治や国際情勢を地政学的な立場から見ると、現在のロシアとの対立で興味深いことが起きている。分断がますます進む米国の民主党と共和党が、はたまた(細かな対立が絶えない)NATO加盟国同士が、対ロシアの危機においては数多くの点で共通認識を持ち、一致団結している点だ。

 1つは、(戦争ではなく)外交による解決が好ましいということ。フランスのマクロン大統領がプーチン大統領に電話をしたり会談したりしたことは少し全体の思惑と同調しきれていなかったように映るが、その後に中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席と対話したことは米国や同盟国に同調してのことだ。米国を中心に加盟国が連携し、外交での解決の糸口を探っている。

 次が、ウクライナが十分な軍事的支援を与えられるべきだという考え方だ。ドイツは自ら軍事的支援をしていないが、NATOがそれをすることには反対していない。スペインにデンマーク、フランス、米国などがこぞってウクライナに必要な物資を送り、ウクライナ政府がしっかり自衛できるように支援している。バルト三国やポーランドなどNATO加盟国の最前線に軍を配備することもしている。

 またNATO加盟国が直接的にウクライナを防衛しない点でも一致している。

 ただ、もしロシアがキエフを陥落させたり、一部侵攻したりするようなことがあれば、数週間前にバイデン大統領が発言していたように、米国と欧州の同盟国が強力かつ連携した措置を講じることになる。

 最後が、ウクライナがNATOに加盟するかどうかは、ウクライナ政府が決めるという点だ。NATO加盟国が強要することではない。

 こうしたNATO加盟国の団結は、近年ではあまり見ることのなかったことだ。これが西側の状況だ。

 ではロシアの状況はどうか。

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