「食品スーパーで売られている1ドル値上げしたばかりのサーモンサラダが、また1ドル上がって11ドル99セントになった。あらゆる物の価格が上がって貯蓄に回すおカネがどんどん減っている」

 米ニューヨーク市マンハッタンの高級住宅街アッパーウエストサイド地区に住む女性は1月中旬、こう言って肩を落とした。米労働省労働統計局によると、米国の食品価格は2021年の1年間で6.3%上昇し、グレートリセッション(08年の金融危機に端を発した景気後退)以来、最も高い数字を記録した。

 今や聖域などない。同じ統計によると、21年の価格上昇率はガソリンが49.6%、中古の乗用車やトラックが37.3%、新車が11.8%と運搬・移動にまつわる物価が急騰した。また外食(6%)、アパレル(5.8%)、医療サービス(4.3%)の価格も上昇。21年中にほとんど値上がりしなかったのは処方薬だけだった。

聖域無き価格上昇が続く。2020年12月比21年12月時点の米商品別物価上昇率から、運搬・移動にまつわる物価が急騰しているのが明らかだ
聖域無き価格上昇が続く。2020年12月比21年12月時点の米商品別物価上昇率から、運搬・移動にまつわる物価が急騰しているのが明らかだ
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 上昇率も悪化する一方だ。21年12月の消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は7.0%に達し、39年半ぶりの高水準となった。止まらない価格上昇に消費者と企業の我慢が限界に達するのも時間の問題だ。

低所得層に忍び寄る不安

 22年1月下旬、企業や飲食店がひしめくミッドタウン地区の格安ピザ店に一人の男がやってきた。小さな店舗には、ピザを焼くオーブンと、焼き上がったピザを一時的に保管しておくショーケース、そして缶飲料を大量に入れた冷蔵庫だけが置かれている。ひっきりなしに客が訪れ、ピザが焼き上がった瞬間に購入していくので、ショーケースにピザが並ぶことはほとんどない。

 男はおもむろにポケットから小銭入れを取り出すと、ショーケースの上でひっくり返して小銭をばらまき店員に言った。「2ドル75セントあるはずなので数えてくれませんか」

 店の名は「99セント・フレッシュ・ピザ」。生地にピザソースとチーズだけを載せた「チーズピザ」をスライス1枚1ドルで販売するチェーンを市内で展開している。一番人気は、スライス2枚と缶飲料1つで2ドル75セントのセットメニュー。手軽に安く腹を満たせることからリセッション以降、低所得層を中心とした働き手や学生、観光客などに人気を博してきた「ニューヨーク名物」だ。

米ニューヨーク市マンハッタンにある格安ピザ店は低所得層の「命綱」だが、値上げの危機に直面している
米ニューヨーク市マンハッタンにある格安ピザ店は低所得層の「命綱」だが、値上げの危機に直面している
パリパリの生地は旅行客にも人気
パリパリの生地は旅行客にも人気

 ところが1月中旬、同チェーンを経営するモハマド・アブドゥル氏が地元メディアに「値上げをするかもしれない」と話したことで地元民に衝撃が走った。「おカネのない人がおなかだけは満たせるように」を01年の創業時から信条としてきたアブドゥル氏。ホームレスの人々の命綱でもあるため値上げは一度もしてこなかった。そんな店が値上げするほどインフレが悪化すれば低所得層の不満爆発につながりかねず、新型コロナウイルス封じに失敗したバイデン政権はさらに窮地に追い込まれる。

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この記事はシリーズ「池松由香のニューヨーク発直行便」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。