11月14日、インドのデリー首都圏では建設現場での作業が一時禁止され、15日からは学校も休校となった。さらに17日には生活必需品を除く製品を運ぶトラックの立ち入りも制限された。住民の健康被害を防ぐための措置という。もっとも、脅威とされたのは新型コロナウイルスではない。大気汚染だ。

 ニューデリーでは大気汚染の程度を示す空気質指数(AQI)が11月に入り大きく悪化し、連日のように健康にとって「危険」とされるレベルが続いた。「屋外には白いもやがかり、いやな匂いが部屋まで入ってくる」とある住民は話しており、喉や目の痛みを訴える人も増えているという。「とても屋外で活動できる状況ではない」と話す人もいる。

 周辺の農家による野焼きや、ヒンズー教の大祭「ディワリ」で大量の爆竹や花火が使用されたことなど、大気汚染が深刻化した要因は様々に指摘されている。石炭火力発電も大気汚染を悪化させているとして、デリー近郊の一部の火力発電所も稼働を一時停止した。市民の健康被害を回避し、大気汚染の度合いを落ち着かせるため、当局は新型コロナの感染拡大の際に導入されたような大規模なロックダウン(封鎖措置)を導入することも検討している。

スモッグが立ち込めるインドの首都ニューデリー(写真:AFP/アフロ)
スモッグが立ち込めるインドの首都ニューデリー(写真:AFP/アフロ)

 もっとも、インドでは乾期が訪れると毎年のように大気汚染が深刻化しており、もはや「風物詩」ともいえる現象となっている。ただ今回は国民の関心が例年以上に高く、対策も強化されているように見える。

 その理由について、ある住民は「新型コロナによる危機や気候変動に関する意識の高まりが影響している」と話している。

 新型コロナ感染拡大を封じ込めるため、インドでは一時、厳しい封鎖措置が導入された。経済活動が停滞した結果、皮肉なことに大気汚染は改善され、デリーに住む人々も久しぶりに澄み切った青空の下で生活できたという。ただ経済活動が再開するにつれて、再び都市はスモッグに覆われてしまった。このギャップが、人々に大気汚染の深刻さを改めて認識させることになった。

 もう1つの理由として考えられるのが、環境問題に対する意識の高まりだ。

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