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大接戦となった今回の米国大統領選挙、その結果がようやく見えた。米国の主要メディアは11月7日、相次ぎ民主党のジョー・バイデン氏の勝利を報じ、同日バイデン氏は勝利宣言した。では米国を率いる新しいリーダーは東南アジアからどう見られているのか。東南アジア情勢はどう動くのか。タイのタマサート大学の専門家に聞いた。

米大統領選は民主党のバイデン氏に軍配が上がりました。

ビブーンポン・プーンプラシット准教授(以下ビブーンポン氏):はい。ただトランプ大統領は選挙結果について争う姿勢を示しています。またトランプ大統領の支持者は選挙で不正が起きたと信じている。少なくとも今年中はトランプ氏が大統領の座にあるため、スムーズな政権交代が実現するのか不安視しています。

ビブーンポン・プーンプラシット・タマサート大学准教授。
タイのアメリカ教育協会顧問も務める。タマサート大学法学部を卒業後、米国の南カリフォルニア大学で修士号、米クレアモント大学院大学で博士号を取得。タイのメディアへの出演も多い。

それでも選挙結果が覆らないとすれば、バイデン氏が新大統領として米国を率いることになります。何がどう変わると見ていますか。

ビブーンポン氏:バイデン氏がトランプ大統領の4年間を全て否定するとは思いません。米国第一主義を掲げたトランプ大統領は自動車をはじめとする産業を米国に回帰させ、国民に仕事をつくり出しました。米国が中国に利用されてきたという見方も支持を得ています。だからこそ今回の選挙でも米国民の半数近い人々がトランプ大統領を支持したのでしょう。

 バイデン氏はトランプ大統領の方針を否定はしません。ただ問題解決へのアプローチは変えるでしょう。交渉に重きを置き、協調することを目指す。端的に言えばバイデン氏はトランプ大統領が掲げた方針を、より伝統的な手法で、より「正攻法」で進めていくイメージです。例えば外交。トランプ大統領のようにツイッターを駆使するのではなく、もっと正規の外交ルートを使った、よりプロフェッショナルなアプローチを取ると思います。

 米中貿易戦争も続きます。米国は引き続き中国を「敵」と見なすはずです。ただバイデン氏はトランプ大統領よりも協調的な姿勢を示すのではないでしょうか。問題解決には世界のスーパーパワーが協力しなければならないと彼は考えている。だから中国と正面から衝突するリスクは避けようとするでしょう。台湾への対応についても、トランプ大統領のように中国を逆なでするような動きは取らないと思います。トランプ大統領が中国製品に課した高関税も見直される可能性があります。

 トランプ大統領は世界からどう見られようと、自国の利益になると思えば何でもやってきました。一方、バイデン氏は世界の動向も気にかけています。国際連合とも協調しようとするでしょうし、気候変動対策の国際的な枠組みにも戻るかもしれない。産業の米国への回帰についても、トランプ大統領のように何でもかんでも自国に戻そうという方針ではなく、医療機器とかAI(人工知能)など、重要分野に絞って、選択的に米国に戻そうとすると思います。

「バイデン氏は東南アジアに回帰する」

米大統領の交代はアジアにどんな影響を及ぼすでしょうか。トランプ大統領の東南アジアに対する関心は相対的に低かった印象があります。バイデン氏はどうでしょうか。

ビブーンポン氏:確かにトランプ大統領はどちらかといえば東アジアや中東を重視し、東南アジアへの関心が高いとは言えませんでした。この地域で開かれた大規模な国際会議に足を運ぶこともほとんどありませんでしたから。中国との対立で見ても、まるで米国一国だけで戦っているようでした。