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 「私たちは平和に集会を開いています。ここには若者がたくさんいる。こんな仕打ちはやめて下さい」。10月16日夜のバンコク。盾を持って並び威圧する警察の機動隊に対し、一人の女性が手を合わせこう懇願していた。

10月16日夜、警察はバンコク都心で開かれた反体制集会の強制排除に乗り出した

 彼女の背後には現政権や王室などタイの支配層に抗議するために集まった多数の市民がいた。警察は解散するように求めたが、人々は耳を貸さず「プラユット(首相)は出ていけ!」「封建主義は滅びよ!」と口々に叫ぶ。業を煮やした警察は強硬手段に出た。冒頭の女性の訴えもむなしく、機動隊は前進を始め、デモ参加者に対する放水も始まる。最初に放たれたのは通常の水だったが、その後放射されたものには催涙ガスが混じっていたようだ。これを浴びると目や喉がヒリヒリと痛み、皮膚にはやけどしたような痛みが走る。「香港(の民主化運動)と全く同じ光景だ」。逃げ惑う人々を目前に、タイのある報道関係者はこうつぶやいた。

16日夜、機動隊に手を合わせて抗議する女性

 7月頃から活発になったタイの反体制運動は激化の一途をたどっており、10月14日に開かれた集会を機に政府はその弾圧に本腰を入れ始めた。15日早朝、前日からバンコクにある首相府前で座り込みをしていたデモ隊に対し、プラユット首相は機動隊をけしかけた。5人以上の集会を禁じる非常事態宣言を発令し、さらに16日までに20人を越えるデモ指導者らを次々と逮捕していく。これにより反体制派は主要な幹部を失った。

 それでも反体制運動は収束しない。指導者の逮捕や集会の強制排除は人々の怒りを買い、むしろ運動を活発化させることになった。17日夜にもバンコクの各地で集会は開かれ、都内の交通網はまひした。こうした集会は今後連日のように開催される見通しだ。

顕在化した「敵」との衝突

 なぜタイで反体制運動が激化したのか、なぜ政府はここにきて強硬な姿勢を取り始めたのか。その背景やポイントを探ってみたい。