東南アジアの自動車市場は日本メーカーが8割のシェアを握る「日本車王国」だ。その市場で、中国や韓国、そして現地の企業が、電気自動車(EV)を突破口にして日本勢の牙城を切り崩そうと動き出した。中国勢の動きを追った前回(「日本車王国」に異変 タイになだれ込む中国自動車メーカー)に続き、今回は韓国勢や現地企業の動きをリポートする。

 「これでようやく(東南アジア市場で)戦える体制ができる。EVも中国勢に負けないものが出てくるはずだ」。韓国・現代自動車の関係者は、同社がインドネシアで踏み切った二つの大規模投資について、こう期待を寄せる。

現代自動車はインドネシアで電池からEVまで手掛ける計画だ。写真はジャカルタ市内(写真:アフロ)
現代自動車はインドネシアで電池からEVまで手掛ける計画だ。写真はジャカルタ市内(写真:アフロ)

 一つは完成車工場への投資だ。現地報道などによれば、2022年にもガソリン車に加えEVの生産を始める。当初の年間生産能力は15万台で、最終的には25万台まで拡大する。もう一つが電池工場の建設。インドネシアが世界最大の埋蔵量を誇る電池原料のニッケルに着目し、韓国LG化学と共同でEV向け電池工場を建設している。こちらは24年にも量産を開始する見通しだ。

 中国市場での販売不振に直面する現代自にとって、需要の拡大が見込める東南アジア市場の開拓は喫緊の課題だった。

EV向け電池から完成車まで一気通貫

 組み立て工場があるベトナムを除けば、東南アジアの自動車市場における現代自の存在感は大きいとはいえない。グループ傘下の起亜自動車と合わせても東南アジアにおける市場シェアは1割未満。タイやインドネシアなどではEVの輸入販売をしているが、価格が高く、販売台数はわずかとみられる。

 その現代自がインドネシアの完成車工場を稼働させれば、輸出拠点として競争力のあるガソリン車やEVを域内各地に輸出できるようになる。さらに電池工場が完成すれば、EVのコスト競争力をさらに高められる可能性がある。

 関係者によれば「当初はインドネシアに建設する工場でEVを生産する計画はなかった」という。一方、インドネシア政府は電池の原料を抱える強みを生かし、タイ同様に自動車の電動化を進めようと模索していた。そこで手厚い恩典の提供などと引き換えに、現代自に新工場でのEV生産について強く働きかけたとみられる。

 もっとも「EVを生産することは中長期的には現代自にとってもメリットになる」と関係者は話す。「すぐにEVがバンバン売れるとは思っていないが、一方でEVからガソリン車まで競争力のある自動車を広く展開できれば、最先端の自動車総合メーカーという印象を消費者に植え付けることもできる。EVはガソリン車を売る上でも重要な存在だ」(同)

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