東南アジアの自動車市場は日本メーカーが8割のシェアを握る「日本車王国」だ。1960年代、現地の自動車市場が黎明(れいめい)期にあるころから日本メーカーが進出し、各国政府と二人三脚で自動車産業を育ててきたことが結実した。

 その強固な城壁に、わずかな隙間が生じている。電動化への対応だ。従来の自動車産業を大きく揺さぶる電動化の波は、東南アジアにも確実に押し寄せている。中国や韓国、そして現地企業が、電気自動車(EV)を突破口にして日本勢の牙城を切り崩そうと動き出した。

 日本勢が築き上げた「王国」で今何が起きているのか。中国、韓国そして現地勢の動きと、迎え撃つ日本勢の戦略をシリーズ「東南アジアEV攻防戦」で追う。

 「想像していたよりずっと安い」。9 月下旬、タイの首都バンコクにある自動車販売店を訪れた会社員のタイ人女性は驚いた。販売員から説明を受けていたのは英老舗ブランドとして知られる「MG」のEV「MG EP」だ。販売価格は98万8000バーツ(約325万円)と、先行する日産自動車のEV「リーフ」のタイにおける定価の半値程度。タイで人気のガソリン車、ホンダの「シビック」とほぼ同じ価格帯だ。

中国・上海汽車が現地財閥と組みタイで展開するEV「MG EP」。100万バーツを切る価格で注目を集めた
中国・上海汽車が現地財閥と組みタイで展開するEV「MG EP」。100万バーツを切る価格で注目を集めた

 「『燃料費』でもお得ですよ」と販売員はセールスに熱を込める。MG EPの航続距離は380キロメートルで、販売員によれば「1回のフル充電に必要な電気代は200バーツ(約700円)程度。(1km当たりの)コストはガソリン車の4分の1」だという。「EVには興味はあったが、EV本体も充電にかかる費用も、もっと高いものだと思い込んでいた。これなら次に買うクルマの候補にできる」とタイ人女性は話す。

 問題は充電インフラだ。タイ電気自動車協会(EVAT)によれば、足元の充電スタンド数は全国で約2300カ所と、日本と比べて1割ほどしかない。ただタイ人女性は「バンコクを出て長距離移動することはほとんどない。街中を走り回れれば十分」と意に介さなかった。

タイのEVの8割以上がMG

 このタイ人女性を含む多くの一般消費者はMGを英国企業のブランドだと認識しているとみられる。しかし、MGブランドのクルマの生産・販売を実際に手掛けているのは中国の自動車大手、上海汽車集団だ。MG EPも中国で生産し、タイに輸入している。

 2005年、MGブランドを抱えていた英MGローバーは南京汽車に買収された。その2年後、今度は上海汽車が南京汽車を買収し、MGは上海汽車傘下のブランドとなった。上海汽車は12年、タイ最大の財閥であるチャロン・ポカパン(CP)グループと組んでタイに進出すると発表し、MGブランドを前面に押し出してガソリン車を中心に展開してきた。

 じわりと存在感を高めてきた上海汽車とCPグループの合弁会社は、19年にEV「MG ZS EV」をタイに投入した。119万バーツという低価格で関心を集めたものの、「それでもお客さんからは『まだ高い』という声が多かった」(ディーラー販売員)という。そこでさらに価格を下げたMG EPを昨年末に投入したところ、「販売が伸びていった」(MG販売員)

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