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 2019年の中ごろ、あるタイの大企業の幹部と会食をする機会があった。特に記憶に残っている話題の一つはタイの王室に関するものだ。王室の権威はタイでは絶対視されているため、公の場でこれを話題にすることは通常避けられる。ただ幹部は声のトーンを落としつつ「特に若い世代の間で、王室に対する敬意が相当に薄れている。先行きが心配だ。近く政治や社会は大きく混乱し、ビジネスにも影響が出るかもしれない」と不安を口にした。

 その不安は今年に入って顕在化しつつある。8月を境に現政府や王室を批判するデモが活発化し、9月19日と20日の両日には、バンコク市内にあるタマサート大学と王宮前広場を占拠する形で14年以来最大規模のデモが開かれた。5万人以上の人々が集まり、おおっぴらに強烈な王室批判が繰り広げられたのだ。

SNS(交流サイト)に参加者がアップロードした集会の様子。雨が降る中、デモは翌日まで続いた。

 「我々の税金が国王の接待施設に投じられている」「国王も我々と同じ人間であり、我々と同じく法の下にあるべきだ」「国王はこれ以上クーデターを承認すべきではない」「国の財産は国王の私的な目的のために使われてはならない」「タイ王国軍は王のものではない。軍は人々の元に戻れ」。19日深夜、王宮前広場に設置された舞台に上がったリーダーの一人は、国王と王室について糾弾し、王室改革が必要だと訴えた。

 タイで王室批判はタブー視され、刑法では不敬罪も定められている。デモを問題視している警察は、そこで展開されたスピーチを精査している。現地紙によれば、いくつかの文言が不敬罪に当たる恐れがあると見ているという。仮に不敬罪が適用された場合、10年以上の禁錮刑が科される。

集会参加者は3本の指を掲げて独裁への抵抗や抗議を示す。米国の人気映画が由来となっている。