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 安倍晋三首相が8月28日に辞任を表明し、次期首相となる自民党総裁選が目前に迫っている。7年8カ月に及んだ安倍政権を東南アジアはどのように見ていたのか。経済面でも安全保障面でも重要なパートナーである東南アジアの国々(ASEAN、東南アジア諸国連合)は次期首相にどのような期待をかけているのか。日本とASEANの関係に詳しいタイ・チュラロンコン大学アジア研究所のサイカウ・ティパゴン・日本ASEAN研究センター長に聞いた。

サイカウ・ティパゴン・日本ASEAN研究センター長。1984年、タイのチュラロンコン大学を卒業後、米ミズーリ大学で修士号、チュラロンコン大学で博士号を取得。専門は国際関係、タイ研究。2008年より現職。

まず率直に、安倍首相についてASEANからはどのように映っていたでしょうか。

サイカウ・ティパゴン・日本ASEAN研究センター長(以下、サイカウ氏):ASEANをひとくくりにして語ることは非常に難しいのですが、少なくとも各国にとって安倍首相が率いた日本政府とは良い関係を構築できたと言えるでしょう。安倍首相が長期政権を実現したことで、関係は安定したとも言えます。

 ただ安倍首相が掲げてきた憲法改正については様々な見方がありました。一方の見方は警戒を伴っています。一部の人々や研究者は、安倍首相が「時計の針を戻そうとしているのではないか」と警戒しました。日本をかつての軍国主義の時代に戻そうとしていると恐れたのです。

 ただ別の解釈もありました。日本が(憲法9条改正により、武力行使のハードルが下がることで)南シナ海問題に貢献してくれるのではないかとの見方です。少なくともASEAN各国の外交関係者は上述の「軍国主義への逆戻り」という懸念よりも、こちらへの期待が大きかったのではないでしょうか。南シナ海では中国が実効支配を強めており、ベトナムやフィリピンなどの国が反発しています。中国の影響力拡大を押しとどめることができるプレーヤーとして、日本に期待する見方は根強くあります。