タイの首都バンコク中心部にあるクリニック(診療所)「BDMSウェルネス・クリニック」は一見するだけではとても医療機関には見えない。大きなシャンデリアが照らす待合室にはじゅうたんが敷き詰められ、座り心地のよいソファが並ぶ。受付に立つ看護師と、待合室の奥にあるガラス張りの薬の調合室がなければ、高級ホテルのロビーやラウンジだと勘違いしかねない。

ここはタイを拠点とする民間病院の世界大手バンコク・ドゥシット・メディカル・サービシズ(BDMS)が2018年に開業した富裕層向けのクリニックだ。健康を維持、増進して病気を未然に防ぐことを目的とした施設で、再生医療や不妊治療、歯科治療など様々な医療サービスを提供。施設内にはスポーツジムも完備しており、クリニックに直結した300室のホテルも併設している。
顧客はタイの富裕層だけではない。自国の医療水準が十分でないとか、治療や健康改善と合わせてバカンスも楽しみたいと考える外国人が、充実したサービスを求めてこのクリニックを訪れていた。「全体の2割は外国人の顧客で、中東や東南アジア近隣国(ミャンマー、カンボジア、ベトナムなど)の顧客が多く、近年は中国の伸びも顕著だった」とCOO(最高執行責任者)兼ディレクターのタヌポン・ヴィルハガルン氏は話す。
観光産業が発達しているタイは医療水準の高さでも知られる。この両者を組み合わせる形で、2000年前後から注目を集めてきた分野が医療観光(メディカル・ツーリズム)だ。バンコク・ポストによれば17年のメディカル・ツーリズムの関連収入は5億8900万ドル(約620億円)に上った。さらに最近では病気を治療するだけではなく「ウェルネス(健康)を維持・増進させるサービスに対する需要も急激に伸びている」(タヌポンCOO)という。その需要を捉えようとBDMSグループが立ち上げたのが、このウェルネス・クリニックだった。
だが新型コロナウイルスの到来によってBDMSウェルネス・クリニックの目算は狂った。外国人比率がより高くなると予想していたが、3月末から国境が閉じられてしまったため「外国人の顧客は一部駐在員を除くとゼロ」(タヌポンCOO)になった。
この記事は会員登録で続きをご覧いただけます
残り2146文字 / 全文3070文字
-
【春割】日経電子版セット2カ月無料
今すぐ会員登録(無料・有料) -
会員の方はこちら
ログイン
【春割/2カ月無料】お申し込みで
人気コラム、特集記事…すべて読み放題
ウェビナー・音声コンテンツを視聴可能
バックナンバー11年分が読み放題
この記事はシリーズ「東南アジアの現場を歩く」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?