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 2020年6月末、中国政府は香港に対する統制を強める「香港国家安全維持法」を公布し、香港政府は即座にその施行に踏み切った。自由や権利を尊重する考え方が脅かされ、香港の成長を支えてきた「一国二制度」が崩壊するとの懸念が広がり、足元では香港の人々が資産や住まいを海外に移そうと動き出している。

 アジアの金融センターとしての地位を香港と競ってきたシンガポールは有力な逃避先の一つになりそうだ。「国家安全維持法の施行を境に、香港の証券会社や投資運用会社、富裕層の資産を管理運用するファミリーオフィスなどから問い合わせを受ける機会が急増した。新しい事業体の設立や金融のストラクチャー(仕組み)の構築、人員の配置転換などに関して相談を受けている」。香港の顧客を多く抱え、金融関連ビジネスに精通するシンガポールのある法律事務所の幹部はこう明かす。

6月30日、香港国家安全維持法が施行され、7月8日には香港に治安機関「国家安全維持公署」が設置された(写真:新華社/アフロ)

 この幹部によれば、香港で民主化デモが活発化した2019年から徐々に問い合わせは増えていたという。新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大した2月から4月にかけては落ち着きを見せたものの、問い合わせは5月から再び増え始め、そして香港国家安全維持法の施行を受けて急増することになった。「(香港の顧客は)国家安全維持法が金融センターとしての香港にどのような影響を与えるのかを強く不安視している。代替機能をシンガポールなど他国に求める動きは今後も続くだろう」と同幹部は見る。

 不動産市場でも動きは出ている。