全3490文字

 インドやオーストラリアなどアジア太平洋の各地で中国に対する警戒感が広がっている。(関連記事:インドでは「中国排除アプリ」も 広がる覇権主義への警戒感

 東南アジアではベトナムやフィリピン、インドネシアなどが南シナ海における中国の実効支配の強化に反発している。6月27日、東南アジア諸国連合(ASEAN)の首脳会議を受けて発表された議長声明では、南シナ海について「懸念が示された」とし、名指しを避けつつも中国の南シナ海での権益拡大の動きについて批判、けん制している。

 もっとも、東南アジア各国の立場は複雑だ。中国を警戒する見方もあれば、同国の覇権主義的な野心について否定し、互恵的な関係を築くことができると見る識者もいる。東南アジアの国際関係に詳しいタイ・タマサート大学のスラチャイ・スィリクライ名誉教授はこの立場から「中国を恐れる必要はない」と話す。

中国が南シナ海の実効支配を強めており、ベトナムやフィリピン、インドネシアなど領有権を争う東南アジア各国が警戒と不満を強めています。

南沙諸島で中国が開発を進める人工島。中国は4月、南シナ海に行政区を設置した。防空識別圏を設定するとの見方も強まっている(写真:AP/アフロ)

スラチャイ・スィリクライ・タマサート大学名誉教授(以下スラチャイ氏):中国は確かに南シナ海の大部分で自分たちに権益があると主張し、独自に設定した九段線と呼ばれる境界線を引いています。この主張は的外れとは言えません。17世紀には中国で南シナ海を示す地図が作成されており、1946年には南沙諸島に中国人が上陸している写真も撮影されているからです(編集部注:オランダ・ハーグの仲裁裁判所は2016年、九段線に国際法上の根拠はないと認定している。今年5月にはインドネシアが中国の南シナ海に関する主張に根拠はないとの書簡を改めて国連に送っている)。

[スラチャイ・スィリクライ氏]
タイ・タマサート大学名誉教授。タマサート大学を卒業後、ニューヨーク州立大学で博士号を取得。専門は政治学。東南・東アジアの国際関係などを専門とし、タイメディアへの出演も多い。

 もともと東南アジア各国はこの海域に大きな関心を払ってはいませんでした。にわかに注目を集めることになったのは、1970年代に入ってからです。米国が「南シナ海には大量の天然資源がある」との調査リポートを公表しました。沿岸各国が目の色を変えてこの地域の領有権を主張し始めたのはこの頃からです。足元では中国の動きばかりが注目されますが、中国側が持ちかけた共同開発の提案について、東南アジア側が拒否したこともあるのです。