デジタル通貨を巡り、これまでにない動きが東南アジアで起きている。暗号資産を稼げるゲームが流行し、中央銀行デジタル通貨の発行でも先行する。金融インフラの弱さがイノベーションを呼び、通貨のデジタル化に拍車がかかろうとしている。現場を追った。
「神様の贈り物だった」。フィリピンの首都マニラ郊外に住むジェフさん(36歳)はスマートフォンを片手に昨年の出来事をこう振り返る。日雇いの塗装工として働いていたが、新型コロナウイルス禍により仕事は激減し、収入は一時途絶えた。宅配会社で働いていた妻の仕事もままならなくなった。2人の子どもを養うため、妻は中東のドバイへ出稼ぎに行くことを真剣に考えた。だが一度出てしまうと、少なくとも2年は家族には会えなくなる。

2021年8月、追い詰められていたジェフさんはフェイスブックで「ジョブトライブス」というカード対戦型ゲームの存在を知った。ゲーム内で稼いだお金は現実に持ち出せるという。半信半疑だったが、わらにもすがる思いでダウンロードした。

このゲームの稼ぎが家族を救った。お金を稼げるという触れ込みは本当だったのだ。ジェフさんは1日数時間遊ぶだけで1カ月当たり1万2000ペソ(約3万円)前後の収入を手にし、後に妻もゲームを遊ぶようになる。夫妻はゲームの収入で食料品に加え、冷蔵庫やパソコンなどを買いそろえることができた。雨漏りがしていた家屋も修繕できた。「何よりも、家族がバラバラにならずに済んだことがうれしい」。ジェフさんとその妻は涙交じりに語る。
ジョブトライブスは「NFT(非代替性トークン)ゲーム」や「Play to Earn(稼ぐために遊ぶ)ゲーム」などと呼ばれる。ゲーム内の通貨やキャラクターがブロックチェーン(分散型台帳)技術を用いたトークンとして発行され、カードを売買したり、対戦に勝利するなどして獲得したトークンは、暗号資産(仮想通貨)としてペソなど法定通貨に交換できる。
マニラのスラムに住むリッキーさん(36歳)もこのゲームに救われた一人だ。
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