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 タイで目前まで進んでいた環太平洋経済連携協定(TPP)の加盟交渉入りに暗雲が垂れ込めている。フェイスブックやツイッター上では「NoCPTPP」というキーワードを付けた加盟反対のコメントが数多く投稿され、与党内からも反対意見が台頭。政府は4月と5月の2度にわたり加盟申請について閣議決定することをもくろんだが、いずれも提案自体を見送らざるを得なくなった。後退に拍車をかけているのが最大与党「国民国家の力党」の内紛だ。TPP加入に積極的だった経済関係閣僚と保守派との間で内紛が勃発し、積極派が窮地に追い込まれている。

タイはTPPへの加盟を検討してきたが、政権の混乱により見通しが立たなくなりつつある(写真:AP/アフロ)

 なぜ今、TPPへの反対運動が巻き起こったのか。なぜ同じタイミングで政権与党内の内紛が表面化したのか。その背景を探ると、新型コロナウイルス危機を契機に、タイの経済運営が変容をきたし始めていることが明らかになる。

TPPに対する懸念の高まり、新型コロナで拍車か

 タイ政府は2018年3月に国内外に向けて加盟する意向を示した。米国の交渉離脱を受けて知的財産保護に関する項目などが凍結されたため、加盟を阻むハードルが下がったためだ。タイ商務省貿易交渉局のオラモン局長は当時、日経ビジネスの取材に「(TPPは)投資環境を整備するうえで大きな助けとなり、海外からの直接投資(FDI)を活発化させられる」と話している。

 TPPに関しては6月17日、英国が加盟を目指す方針を改めて表明し、中国も関心を示している。今後は米国が交渉に復帰する可能性もある。こうした大国に先駆けて枠組みに加盟していれば「交渉を有利に進めることができるため、できるだけ早く加盟することが国益の面から見れば望ましい」とチュラロンコン大学ASEAN研究センター長のピティ助教授は指摘する。

 そこで政府で経済政策を統括するソムキット副首相は今夏までに正式に加盟申請することを目指してきた。だが直前になって野党だけでなく、政府与党内からもTPP加盟に反対する閣僚や議員が続出。世論でも反対の機運が高まり、政府は決定を先送りすることを迫られた。

 TPPへの加盟によって、農業が打撃を受けたり、医薬品へのアクセスが妨げられたりするとの懸念が噴出した。「TPPはタイ人の多くが従事する農業を苦境にさらす」「政府は農家のことを全く考えていない」といった反対意見がツイッターやフェイスブックなどSNS(交流サイト)に多数投稿されている。「TPPで得をするのは資本家や投資家だけだ」というコメントも目に付く。