中国の自動車大手、長城汽車は6月9日、タイのバンコク近郊に新工場を開設した。2020年、タイ生産から撤退した米ゼネラル・モーターズ(GM)の工場を買収し、人工知能(AI)や最新のロボットなどを導入。「世界水準のスマートファクトリー」(長城汽車ASEAN&タイランドのエリオット・チャン社長)に改修したという。

長城汽車は6月9日、タイで新工場を稼働させハイブリッド車の生産を開始した。

 タイは長城汽車にとってロシアに次ぐ2カ所目の大規模な生産拠点となる。「ここを基点に東南アジア市場に向けて右ハンドルの電動車(EV)を展開していく」(長城汽車タイ法人広報担当者)。当初はハイブリッド車(HV)を生産するが、現地報道によれば23年までにEVの生産も手掛けるとみられる。

 開業当初に生産する「ハーバル H6 ハイブリッドSUV」は東南アジア市場攻略のため新たに開発された多目的スポーツ車(SUV)のHVだ。トヨタ自動車がタイで展開するハイブリッドSUV「カローラクロス」(101万~119万バーツ)などと競合することになりそうだ。価格はまだ明らかではないものの、野村総合研究所タイの山本肇シニアマネジャーは「カローラクロスを下回る価格設定になるのではないか」とみている。

 グローバル拠点の設立や新開発したHVの投入といった動きから、東南アジア市場攻略にかける長城汽車の強い意気込みがうかがえる。新工場の年産能力は8万台で、うち6割(4万8000台)はタイ国内市場向けになるという。

 ただ調査会社マークラインズによれば、タイにおける電動車の販売台数は、HV、プラグインハイブリッド車(PHV)を含めても20年で約3万台にすぎない。つまり現状では長城汽車の新工場の設備は過剰で、その姿勢は前のめりに過ぎるようにも映る。勝算はあるのだろうか。

中国から低価格EV投入も

 長城汽車はハーバルH6ハイブリッドSUVの販売目標を公開していない。広報担当者は「現段階では販売台数は重視していない。まずは我々のブランドを確立することに注力する」と話している。

 東南アジア市場は日本の自動車メーカーの存在感が強く、タイにおけるそのシェアは9割近くに上る。日本車に対する信頼感は絶大で、その牙城を崩すのは容易ではない。「長城汽車のブランドが認知されるには、少なくとも数年はかかる」とタイの民間総合研究所カシコン・リサーチ・センターのルチパン・アッサラット調査長は指摘する。

 つけ入る隙があるとすれば、まだ黎明(れいめい)期にあるEV市場だ。長城汽車は中国で低価格EV「欧拉(ORA)」を展開し、販売台数を伸ばしている。タイ市場でも最終的なゴールはEVの市場シェア確保にあるだろう。ただカシコン・リサーチ・センターによれば、タイにおけるEVの販売台数は21年で4000~5000台にとどまり、普及にはまだ相当の時間がかかる。

 そこでまず競争力のあるHVを現地生産して投入し、ブランドに対するこだわりが薄く、新しい技術に親和的な30代前後の消費者に数年かけて訴求していく。

 徐々に高まっていくEVの需要に対しては、まず中国国内で競争力のある低価格EVを輸入して対応する。日本からタイにEVを輸出すると20%の関税がかかるが、中国とASEANとの自由貿易協定により、中国からの輸出には関税がかからない。その強みを生かしてHVからEVまで展開し、自社のブランド認知とEV市場の拡大が十分に進んだところで、タイにあるスマート工場の生産体制をEVに振り切っていくものとみられる。

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