パナソニックが約40年にわたって続けてきたタイでの冷蔵庫と洗濯機の生産から撤退することが日経ビジネスの取材で分かった。2020年秋にも生産を休止し、ベトナムのハノイ近郊にある同社の東南アジア域内最大規模の工場に集約する。

バンコク近郊にある洗濯機と冷蔵庫の生産工場
バンコク近郊にある洗濯機と冷蔵庫の生産工場

 洗濯機は9月末に、冷蔵庫は10月末に生産を休止する。工場を運営するパナソニック・アプライアンス・タイは21年3月末に事業活動を終える見通し。合わせて家電の開発を手掛けるパナソニック・アプライアンスR&Dセンター・タイについても9月末に閉鎖する計画だ。

 バンコク近郊にある生産工場では約760人、隣接するR&Dセンターでは約40人の従業員が働いている。生産の休止に伴い、従業員については必要な配慮をした上で解雇する見通しだが、タイにある他のグループ工場への再就職も支援する。

 足元では新型コロナウイルスの感染拡大や、これに対応するための都市封鎖措置を主因に、アジア各地の消費需要が大きく減退している。ただ今回の決定に新型コロナは影響しておらず、既に19年秋頃には生産休止の検討が始まり、20年2月には撤退を決めた。

 タイ拠点は主に国内と東南アジア各国市場向けに生産をしていた。この地域の白物家電市場は中国、韓国メーカーの攻勢が厳しく、競争は激化する一方だった。タイ商務省のデータによれば、パナソニック・アプライアンス・タイの売上高は13年の88億バーツ(約300億円)から19年には39億バーツに、最終損益は同1億1500万バーツから1500万バーツに落ち込んでいる。ベトナムに生産を集約し、人件費や部品調達コストなどを抑えて競争力を高める狙いがある。

 パナソニックが5月18日に発表した20年3月期の連結決算(国際会計基準)は、売上高が前の期比6.4%減の7兆4906億円、最終的なもうけを示す純利益が前の期20.6%減の2257億円だった。白物家電を含むアプライアンス部門も減収減益で、売上高は同5.7%減の2兆5926億円、営業利益は34.9%減の557億円だった。足元でアプライアンス部門は構造改革を進めている。今回の撤退もその一環と見られる。

 パナソニックのタイ進出の歴史は古い。1961年には同社として初の海外生産会社「ナショナル・タイ」を設立し、乾電池の現地生産を始めた。79年には冷蔵庫、洗濯機の生産も開始し、タイはパナソニックの主要な家電生産拠点に成長した。ただ2015年には炊飯器の生産をマレーシアに移管。加えて今回、冷蔵庫と洗濯機の生産をベトナムに移管することで、調理家電など一部を除きパナソニックはタイでの主要な白物家電の生産から撤退することになる。

新型コロナで「脱・タイ」加速も

 市場の成熟化と少子高齢化が進むタイから周辺国に生産拠点を移す動きは「タイ・プラス・ワン」と呼ばれ、10年代に入り徐々に活発化してきた。これまでは人手のかかる一部工程を切り出して移す動きが中心だったが、今後はパナソニックのように大規模に生産を他国拠点に集約したり、移転させたりする動きが加速するかもしれない。新型コロナ感染拡大の影響により東南アジアに拠点を置く製造業の事業環境が厳しさを増しているからだ。

 ただ、パナソニックについて見ると、同社の白物家電の強みは各国の生活文化に根ざした独自製品の開発にあったという指摘もある。東南アジアの製造業に詳しいある関係者からは、生産拠点の集約が進む中で「特徴のある独自製品を生み出す力も同時に失われつつあるのではないか」と危惧する声が出ている。

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