新型コロナウイルスの感染拡大は人々の生活を一変させた。収束後もすべてが元に戻るわけではなく、人、企業、国などが営みを続けるうえでの新たな「常識」となって定着しそうなものも多い。各地で芽吹いている「ニューノーマル」を追う。今回のテーマは「東南アジア日系製造業の試練」。

 タイに集積する日系の自動車関連メーカーが危機に直面している。

 「5月の受注は悲惨な状況だ。完成車メーカーに発注を次々とキャンセルされ、計画の2割程度に落ち込んでしまった」。ある大手部品メーカーの幹部はこう苦境を吐露する。

 このメーカーは昼夜2交代の生産体制を敷いていたが、3月以降は夜勤を取りやめた。さらに生産に直接関わらない事務作業を担う社員は自宅待機させ、給与を2割ほど削減することにした。今後は現場で働く数百人の派遣社員の契約解除や、正社員の希望退職も視野に入れる。

 「我々が潰れたら、ここに部品を供給しているサプライヤーも行き詰まる。何とか持ちこたえたい」と、複数の金融機関と新たに融資枠の契約を結んだ。とはいえ「1年以上、受注の激減が続くようであれば耐えられないだろう」と言う。

日系完成車メーカーは3月下旬から東南アジア各国にある工場の稼働を相次ぎ休止した(写真は5月18日まで休止を予定しているタイのいすゞ自動車の工場。2019年10月に撮影)
日系完成車メーカーは3月下旬から東南アジア各国にある工場の稼働を相次ぎ休止した(写真は5月18日まで休止を予定しているタイのいすゞ自動車の工場。2019年10月に撮影)

 新型コロナの感染拡大を背景に、東南アジアの製造業が当初直面した危機は中国を中心とするサプライチェーンの寸断だった。大手企業は部品調達先の分散化を進めていたが、中国から調達している一部の部品については代替できないものもあった。「ほんの一部の部品が調達できないためにユニット全体が作れず、生産継続が危ぶまれた」とある大手部品メーカー関係者は振り返る。

 東南アジアのサプライチェーンに詳しい専修大学の池部亮准教授は「調達先を分散化していても、その複数の調達先が同じ中国製の部品を使用していることも珍しくなかった」と指摘する。3月に入ると新型コロナの封じ込めを目的にフィリピンやマレーシアなどが国全体や一部地域で工場の封鎖に踏み切ったため、サプライチェーン危機は域内にも波及していった。

撤退や会社の整理の相談が舞い込み始めた

 もっとも、この地域の製造業が直面した危機はサプライチェーンの寸断だけにとどまらない。需要の急減も日系製造業を追い詰めた。

 たとえば3月下旬から完成車メーカーは次々と域内工場の操業を休止することを迫られた。その中には夜間を除き封鎖を実施していないタイの拠点も含まれている。多くの完成車メーカー関係者はその理由について「需要の縮小を背景とした生産調整」だと話している。足元で生産は徐々に再開されつつある。しかし、自動車市場の低迷は続いており、ほとんどの拠点でフル稼働まで戻すことはできていないようだ。

 完成車メーカーによる生産調整のあおりを受けているのはタイの部品メーカーだけではない。

 「5月の発注量は計画の4割減になった」とベトナムに拠点を置く大手自動車部品メーカーの幹部は話す。「3月までは(新型コロナの)影響を強くは感じなかったが、4月下旬に突然、大規模な調整が入った」と言う。「4割減では赤字は免れない。この状況が8月まで続いた場合、資金調達など何らかの手を打たなければ拠点を維持できなくなる」と幹部は危機感を強める。

 同じくベトナムに拠点を構える、ある家電関連の部品・設備メーカーも「注文がキャンセルされるなど影響は出始めている。このままでは秋口には人員削減などに手をつけなければならない」と警戒する。

 タイに視点を戻そう。日本貿易振興機構(JETRO)バンコク事務所では、4月中旬のソンクラーン(仏教暦の正月)明けから撤退や会社の整理についての相談が舞い込むようになった。

 タイの自動車産業の動向に詳しい野村総合研究所タイの山本肇シニアマネージャーは「サプライヤーやディーラーの資金繰りについて懸念を持っている。業界関係者の間では 6 月初めには限界が来るとの指摘もある」と指摘。「タイの日系メーカー700社以上で構成してきた垂直分業構造にひびが入るリスクがある」と話す。

続きを読む 2/2 内需が拡大、産業構造が激変

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