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新型コロナウイルスの感染拡大は人々の生活を一変させた。収束後もすべてが元に戻るわけではなく、人、企業、国などが営みを続けるうえでの新たな「常識」となって定着しそうなものも多い。各地で芽吹いている「ニューノーマル」を追う。今回のテーマは「東南アジア、インドで一気に進む産業のIT化」。

 東南アジアの各国とインドは新型コロナの感染拡大を防ごうと、3月から相次ぎ強力な都市封鎖に乗り出した。買い物に出かけることすら容易ではない中、人々から頼られたのがテクノロジーを活用した新しいサービスだ。

 非効率で旧態依然とした産業構造が残る一方、テクノロジーの普及を阻む障壁は比較的低いため、この地域は技術革新が一足飛びに進む「リープフロッグ(カエル跳び)」が起こりやすいと言われてきた。実際に今、東南アジアやインドでは新しいサービスが次々に生まれ、そしてテクノロジーとは縁の薄かった人々がこれを受け入れ始めている。新型コロナは、この地域を一足飛びにテクノロジー先進地へと変貌させる起爆剤になるかもしれない。

パパママ・ストアがオンライン発注を積極化

 インドネシアでは、「ワルン」や「トコ」と呼ばれる家族経営の小さな小売店が都市から農村まであらゆる場所に存在し、人々になじみの深い店として地域に根を張っている。小売市場の7割を占めると言われる伝統的なパパママ・ストアだ。

 その多くは古い経営を続けており、紙と鉛筆を使って商品を発注していた。この状況を変えようと2018年に創業した「シンバッド」というスタートアップは、アプリを使ってメーカーや大手卸売業者に商品を発注できるシステムを開発。これまでに約7万5000店のオーナーが同社のプラットフォームを利用してきた。

インドネシアの首都ジャカルタの住宅街にある小規模な店舗ワルン

 ただ実態としては、店舗を頻繁に訪れる卸売会社の営業員がオーナーの発注を代行していた。テクノロジーに不慣れなオーナーは、自らアプリを使いこなしてオンライン発注することを敬遠していたからだ。

インドネシアのスタートアップ、シンバッドが小規模店舗向けに提供している商品の発注アプリ

 新型コロナウイルスがその状況を一変させた。「ウイルスの脅威が高まるにつれ、オーナーがアプリを使って自ら発注するようになった」。シンバッドの共同創業者でCEO(最高経営責任者)のエミリオ・シャリー・ヴィビゾノ氏はこう話す。4月に入り、ジャカルタ特別州などいくつかの州は大規模社会的制限(PSBB)を発動した。これにより、卸売会社の営業員は店舗に足しげく通うことができなくなってしまったからだ。