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 封鎖には生活の不便や混乱が伴う。現地住民の話によれば、フィリピンではスーパーマーケットが入場規制を実施しており、買い物を済ませるまでに数時間待たなければならないなどの不便が生じている。

 ビジネス・スタンダードの24日報道によれば、インドでは一部地域で外出規制による労働力不足や物流設備の不足により、市場に食品など必需品を供給するのが困難になっているという。封鎖による社会不安でフェイクニュースも広がりやすくなっている。ニューデリー在住者によれば「鶏肉や鶏卵を食べると新型コロナに感染しやすくなる」というデマが広がり、鶏肉、卵の小売価格が暴落。養鶏農家の生活が脅かされる事態が起きた。

 一国の封鎖は外国人や周辺国にも影響を及ぼす。ストレーツ・タイムズなどの報道によれば、タイがバンコクの商業・娯楽施設を閉鎖したため、職を失ったカンボジア人やラオス人、ミャンマー人など数万人の外国人労働者がタイを離れようと各国境に殺到している。国境は封鎖されているが、彼らは体温検査などを受けた上で母国に戻ることができるようだ。ただ人数があまりにも多いため検査が間に合わず、報道によれば国境には長蛇の列ができている。

 タイと周辺国との陸路物流に強みを持つロジスティクス企業JWDグループによれば、国境封鎖後も一部の国境ゲートで物資の輸送車両が通行できているという。ただ通常よりも通関に時間がかかっていることもあり、物量が急速に減少している。ラオスやカンボジア、ミャンマーにはタイの食品や日用品が多く出回っている。JWDグループのバイスプレジデント、ナタプーム・ナタラティエン氏は「仮に国境で物流まで止まったら、タイ周辺国の人々は生活物資を手に入れにくくなるかもしれない」と指摘する。

 マレーシアでは移動制限の影響で、ミャンマーなどからの外国人労働者が帰国できず立ち往生している。旅行会社のオフィス清掃員として働く、ある38歳のミャンマー人女性は封鎖により働くことも、帰国することもできなくなってしまった。この旅行会社は少なくとも5月まで営業を停止することを決め、従業員に3月分の給与を払ったが、それ以降の給与は現状では支払われない見通しだ。

 「食料品を買うお金がなくなったらどうすればいいのか。新型コロナに感染したらどうすればいいのか」と彼女は不安を吐露している。「移動制限が解除され次第、一刻も早く母国に戻りたい」と話すが、現地報道によれば、マレーシアのムヒディン首相は23日、今月末までとしていた封鎖期間を2週間延長することを検討していると表明した。

 既に大規模な封鎖に踏み切っているフィリピンやマレーシア、インドをはじめ各国で、人々は大きな不安を抱えて生活しており、一部では混乱も表面化している。ただ大多数の国民は移動制限や商業施設の停止を受け入れ、平静を保って生活しているようだ。フィリピン、インド両国に住む在住者は「町に人通りはほとんどなく、ゴーストタウンのよう」(マニラ)、「屋外に人の姿はほとんどなく、混乱も見られない」(ニューデリー)と話している。ただ封鎖が長引けば長引くほど、人々のストレスや不安も高まっていく。「大きな混乱が起きるとすれば、これからだ」と両者は口をそろえている。

日系企業の生産拠点、次々と稼働停止に

 各国のロックダウンによって、現地企業だけでなく日系企業も大きな影響を受けている。フィリピンでは一時、20日以降に空港を封鎖する方針を示したため、日系駐在員の帰国ラッシュが起きた。「既に半数以上の駐在員が帰国したのではないか」と上述のマニラ在住者は話す。現在はインドで駐在員やその家族を日本に帰す動きが広がっている。これを受けて日本航空はデリー発成田行きの臨時運航を始めた。

 フィリピンのルソン島とマレーシア全土、インドの大部分の地域で製造業は原則的に生産拠点を閉鎖することを余儀なくされており、たとえばトヨタ自動車はフィリピン、マレーシア、インドの自社と関連企業の生産拠点の稼働を停止している。インドでは自動車最大手のマルチ・スズキも22日、2つの工場の稼働を止めると発表。現地報道によればサムスン電子もインドのスマホ生産拠点の稼働を見合わせている。ダイキン工業はマレーシアとインドの生産拠点の稼働を停止した。

 トヨタ広報によれば「各国拠点では主に国内市場向けの完成車を生産しているが、一部国外の拠点向けに部品の輸出もしており、動向を注視している」という。あるマレーシアに拠点を構える大手製造業は事業継続計画(BCP)にのっとり、既に他国拠点での代替生産を模索し始めた。ロックダウンがいつまで続くかが現状では見えない以上、稼働停止が日系製造業のサプライチェーンにどの程度の影響を及ぼすかも見えにくい。