3月17日、タイ政府は新型コロナウイルス対策として、バンコク首都圏のバーやマッサージ店、映画館など娯楽関連施設を3月18日から31日まで閉鎖することを決めた。多くの外国人観光客をひきつけてきた、アジア最大級といわれる歓楽街はにぎわいを失い、GDP(国内総生産)の2割近くを占めるタイの観光関連産業は危機にひんしている。
18日、バンコク各地の歓楽街で営業していた数多くのバーやマッサージ店は政府の要請に従い一斉に休業した。同日夜、日本の観光客が多く訪れる歓楽街「タニヤ通り」を訪れた。通りは閑散としている。路上での客引きも見られない。カラオケ店が多く入る雑居ビルのエレベーターはストップしている。階段を上って中に入ると人気はなく真っ暗で、あるカラオケ店の前では野良猫が足を伸ばして眠っていた。

タニヤ通りから5分ほど歩くと、欧米人向けのバーや土産物を売る露店が密集する「パッポン通り」にたどり着く。この通りもタニヤと同じく、店は軒並み営業を止めていた。普段はけたたましい音楽が鳴り響く路地裏もひっそりとしており、通りを歩く人も少ない。露店の売り子は手持ち無沙汰な様子でスマホをいじる。「お客さんが来ないから売り上げはもう散々だ。ヤスイヨ、今日は本当にヤスイヨ。何でもいいからとにかく買ってくれ」。時計を売る露天の売り子は英語と日本語でこう悲鳴を上げた。

「なぜ我々が狙い撃ちされなければならないのか。我々が新型コロナ感染の元凶のような扱われ方をしている。本当に感染を封じ込めたいなら、国境も、あらゆる店も閉じればいい」。あるバーのタイ人マネジャーはこう不満を漏らす。この店で働く多くの女性には3月分の給与を支払った上で休暇を出したという。

新型コロナの感染拡大を受けて、ASEAN主要国は相次ぎ、入国制限に踏み切っている。このなかでタイは19日現在も原則的には入国を禁止していない。航空産業を含む観光業や中小企業が大きな打撃を受けるとの懸念から、政府が厳しい渡航制限を設けることに二の足を踏んでいると多くの人は見ている。それにもかかわらず、娯楽施設は自分たちのみが休業を強いられることに「不公平」との不満を抱える。
Powered by リゾーム?