2月1日の国軍によるクーデターはミャンマーを窮地に追いやった。多くの市民が国軍の支配に不服従を貫き、毎日休みなく全国各地で厳しい抗議デモが起きている。ゼネストも広がり、経済は立ち行かなくなりつつある。だが国軍による弾圧は苛烈になる一方だ。報道によれば、3月16日までに少なくとも180人を超える犠牲者が出ている。なぜ国軍はクーデターを起こしたのか。先行きが不透明な状況はいつまで続くのか。ミャンマー政府と少数民族武装勢力との和平に貢献し、ミャンマーの政治・軍関係者とのつながりも深い日本経済大学の井本勝幸・特命教授に話を聞いた。

国軍による弾圧がエスカレートしており、状況は悪化する一方です。

日本経済大学の井本勝幸・特命教授(以下、井本氏):わずか1カ月でミャンマーという国はボロボロになってしまいました。国軍は人々に銃口を向け、通信は断続的に遮断され、夜陰に紛れた誘拐まがいの拘束が横行している。刑務所でもひどい事態が起きていると聞いています。

 治安部隊はデモで負傷した人を手当てする医療ボランティアにまで暴行を加えている。弾圧は厳しくなる一方で、もう尋常ではありません。私は国軍とも長い付き合いがありますが、ここまでバカな連中だとは思わなかったというのが正直な思いです。

3月14日のヤンゴン。抗議運動は全国各地で続いているが、国軍の弾圧により犠牲者も増え続けている。市民団体によれば、14日は少なくとも74人が弾圧の犠牲となった。(写真:AP/アフロ)
3月14日のヤンゴン。抗議運動は全国各地で続いているが、国軍の弾圧により犠牲者も増え続けている。市民団体によれば、14日は少なくとも74人が弾圧の犠牲となった。(写真:AP/アフロ)

 このままではもっと悲惨なことになります。ですから私はCRPH(注:「連邦議会代表委員会」、国軍に対抗するためアウン・サン・スーチー氏率いる国民民主連盟のメンバーが中心となって設立した組織。事実上の臨時政府)のメンバーに「(国軍との)戦い方を変えたほうがいいのではないか」と伝えました。

 人々の国軍を許さないという思いは十分に分かる。ただ路上に出てデモ活動をすれば命を失います。これ以上、犠牲者を増やさないためにも、今後はゼネストなどを中心に対抗していくべきだと考えています。CRPHのメンバーも危ない。今、国軍は関係者を血眼になって探しています。彼らは今、捕まったら最後という状況で活動しているのです。

 クーデターの数週間後に元国軍関係者と話をしたところ、彼は「国軍はルーズ・オア・ウィン・タクティクスに入っている」と言いました。勝つか負けるか、どちらかしかないということですね。もちろん相手は民衆です。武装勢力ならまだしも、丸腰の民衆相手に、何が「ルーズ・オア・ウィン」だと個人的には思います。国軍はここまで民衆の反発が強いとは想定していなかったのです。文句を言いつつもクーデターや国軍の支配を結局は受け入れるだろうと浅読みしていたのです。現実が想定と大きく違っていたものだから、追い詰められて強硬な姿勢を取らざるを得なくなってしまった。

<span class="fontBold">井本勝幸[いもと・かつゆき]氏</span><br>日本経済大学特命教授、日本ミャンマー未来会議代表。1964年生まれ、福岡市出身。東京農業大学、立正大学卒。学生時代からソマリア、タイ、カンボジアなどで難民支援に関わり、28歳で出家。2008年に軍政下のミャンマーに入り支援活動を実施。2011年以降は少数民族武装勢力が支配するエリアに単独で入り、主要な少数民族武装勢力が参加する「統一民族連邦評議会(UNFC))」を創設。政府と少数民族武装勢力との全土停戦に貢献した。少数民族地域で農業事業を手掛ける一方、2012年から旧日本軍兵士の遺骨収集事業を開始。2018年に日本ミャンマー未来会議を発足させる。
井本勝幸[いもと・かつゆき]氏
日本経済大学特命教授、日本ミャンマー未来会議代表。1964年生まれ、福岡市出身。東京農業大学、立正大学卒。学生時代からソマリア、タイ、カンボジアなどで難民支援に関わり、28歳で出家。2008年に軍政下のミャンマーに入り支援活動を実施。2011年以降は少数民族武装勢力が支配するエリアに単独で入り、主要な少数民族武装勢力が参加する「統一民族連邦評議会(UNFC))」を創設。政府と少数民族武装勢力との全土停戦に貢献した。少数民族地域で農業事業を手掛ける一方、2012年から旧日本軍兵士の遺骨収集事業を開始。2018年に日本ミャンマー未来会議を発足させる。

人々は治安当局の弾圧に屈することなく抗議を続けています。現状では着地点が見えません。

井本氏:民衆は今のところ国軍に一歩も引く気はありません。国軍側は国民民主連盟(NLD)が大勝した2020年11月の総選挙で大規模な不正があったとし、選挙をやり直す方針を示していますが、一方で多くの人々はクーデター以前の状況に戻せという。

 国軍に対する反発は本当に根強いものがあります。ミャンマーの民政化はまだ途上で、これまで約半世紀にわたって軍事政権が続いてきました。ここでクーデターを認めてしまっては、また暗黒の時代に逆戻りする。ミャンマーの人々はこう考えています。彼らからすれば、今回は国軍との最後の戦いなのです。だからたとえ命を落としても、経済が立ち行かなくなり生活ができなくなったとしても、絶対に軍政を認めないという姿勢を示しています。

難民が発生する恐れ

 対立は深まるばかりです。国軍による弾圧が激化すれば、生活できなくなる人が大量に出て難民化します。1988年に起きた民主化運動でも多くの難民が発生し、タイに逃れました。国内外の難民を誰が救うのか。国際社会は軍政を動かしてでも彼らを守らなければなりません。

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