コスト増→新天地開拓、は続くのか
ウクライナ危機を受けたエネルギーや食料価格の上昇がもたらすインフレは、アジアの新興国にも波及する可能性が高く、人件費を含めた生産コストの上昇を免れることは難しくなっている。西に向かえば向かうほど輸送コストは上がり、サプライチェーンを管理する難度も上がる。
「バングラデシュの次」を見いだすのも容易ではない。YKKバングラデシュ社の宮田隆司社長によれば、賃金水準がほぼ同じなのはミャンマーとアフリカのエチオピアぐらいだという。これらの国で人件費が上昇すれば「次の受け皿を探すのは難しい。足元ではバングラデシュでも既に生産効率化の動きが出ている」(同)。
安い人件費を当てにしている限り、拠点の競争力は低下していく。この課題を克服するには既存拠点の競争力を伸ばすしかない。人件費は上昇し少子化が進んでいるタイでも、投資を加速させている企業がある。
ミネベアミツミ「多目的工場」の狙い
機械部品大手のミネベアミツミは既存工場の空きスペースに100億円を投じてベアリングの生産設備を導入し、今年8月にも生産を開始する。さらに40億円を投じて新たな多目的工場を建設。100億円を投資して同じくベアリングの生産設備を入れ、来年半ばにも稼働させる。

「多目的工場」と銘打っていることからも分かるように、新工場ではベアリングだけでなく、モーターなど同社が手掛ける様々な製品の生産に対応できる。
同社はタイに進出して既に40年が経過し、優秀な人材が育っている。「人件費だけで見れば、確かに条件が良い場所は他にもある。ただ人材という、お金では容易に換算できない価値がここには蓄積されている」。貝沼由久会長兼社長はこう話す。その強みをフル活用する考えだ。
またタイでは自動化や省人化を模索する動きも出てきている。
「人手にばかり頼っていては安定生産できないという危機感が日系製造業に広がっている」。物流システムなどを展開するダイフクの信田浩志取締役はこう指摘する。
タイでは日系自動車メーカーがいち早く自動化に取り組んできたが、足元では様々な企業が導入を検討し始めている。「数年内には自動化を進めないと、採算が取れなくなる」(日系部品メーカー幹部)
新型コロナ以降、国境を越えた人の移動のハードルが高まったことも、自動化の拡大に拍車をかけそうだ。
タイやマレーシアなどの生産現場を支えていたのは、ミャンマーなど近隣国からやってきた出稼ぎ労働者だった。仮に新型コロナの感染拡大が落ち着いたとしても、従来のように外国人労働者がたやすく国境を越えることは難しくなるかもしれない。

外国人労働者に頼れなければ自動化を進めるしかない。「市場規模は毎年1.5倍のペースで拡大していく。今は現地企業が率先して導入しているが、日系企業も動き出している」(ダイフク・タイランドの和田佳之バイス・プレジデント)
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