コロナ禍が引き起こしたサプライチェーンの混乱に追い打ちをかけるウクライナ危機。「ウクライナ危機の余波、東南アジアに 物流・生産の混乱収まらず」でも見たように、既にその影響は物流面に出始めている。人件費の安さを前提に日本の製造業が構築してきたサプライチェーンを、新たな環境に合わせてどのように変えていくべきなのか。

 考えられる対策は大きく3つ。フロンティアを求めサプライチェーンを西に拡大するか、東南アジアの既存拠点にとどまり競争力を磨くか、あるいは日本に回帰するか、だ。

 最初の選択肢である「西への動き」は既に起きている。注目を集めているのは、かつて最貧国とも呼ばれた南アジアの国バングラデシュだ。

 「最近になって引き合いの声が増えた。ミャンマーに替わる新たな進出の候補地と目されているようだ」。三菱UFJ銀行ダッカ駐在員事務所の橋本健史所長はこう指摘する。

 ミャンマーを下回る人件費の安さと、1億6000万人を超える人口を背景とした豊富な労働力が日系企業を引き付ける。これらを生かそうと、同国では労働集約型の縫製業がいち早く発展。日本勢では1990年ごろからファスナー大手のYKKが進出し、2002年に現地生産を開始。05年には縫製大手のマツオカコーポレーションが進出している。

 ベトナムやミャンマーなどにも拠点を構えるマツオカは今年中にもバングラデシュで新たな工場を立ち上げる。「ミャンマーへの投資が難しくなった今、期待をかけているのがバングラデシュだ」と松岡典之社長は話す。

縫製大手マツオカコーポレーションのバングラデシュ拠点
縫製大手マツオカコーポレーションのバングラデシュ拠点

 厳しい価格競争が続く中、最近ではベトナムですらコストが合わない製品が出てきた。バングラデシュがその受け皿となるという。

膨らむバングラデシュへの期待

 バングラデシュは日系製造業のサプライチェーンが集積する東南アジアに近く、隣には巨大市場であるインドが控える。地理的な要衝であるのに加え「アジアでも有数の親日国」(日本貿易振興機構ダッカ事務所の安藤裕二所長)としても知られる。インフラには改善の余地が大きいが、日本などの支援を受け道路や深海港などの整備が急ピッチで進む。

 内需の成長期待や輸出拠点としての潜在力の高さに目を付け、住友商事はダッカ近郊で工業団地の造成を進めている。今年中には開業する見通しだ。「多くの日系企業が進出を本格的に検討し始めた。食品から家電、自動車まで幅広い業種で引き合いがある。目的も内需向けから輸出加工まで様々だ」。同社海外工業団地部の信田剛希課長はこう話す。

ダッカ郊外では住友商事が工業団地の造成を進めている
ダッカ郊外では住友商事が工業団地の造成を進めている

 三菱自動車はバングラデシュで、組み立て工場の建設を検討している。22年末までに判断する見通しだ。ほとんどの部品や原材料を輸入に頼らざるを得ないが、「現地生産により今後は部品産業の発展も見込める」(同社広報部)と期待する。

 労働力と市場を求めて西を目指す動きは活発化するだろう。ただ新天地に進出しても、「出た途端に人件費は上昇」(マツオカの松岡社長)し、「サプライヤーや加工メーカーが集積した頃にはコストの優位性は失われてしまう」(日系製造業幹部)。

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