20代後半のタイ人男性、ソムチャイさん(仮名)は2021年半ばまでタイ国際航空のパイロットとして活躍し、世界中を飛び回っていた。だが新型コロナウイルスは彼からパイロットとしてのキャリアを奪った。慢性的な経営不振が続いていたタイ航空は旅行需要の急減に耐えられず20年5月に破綻し、再建のためリストラに着手。ソムチャイさんはその対象となり、職場を離れることを余儀なくされてしまったのだ。

 職を失ったソムチャイさんが収入を得る手段として注目したのはブロックチェーン技術を活用したゲームだった。毎日スマートフォンにかじりつき、1日8時間以上を費やしている。今やゲームは貴重な収入源となっており、パイロット時代の貯金を運用する手段ともなっている。

 主にプレーしているのはベトナムのスタートアップ企業が開発運営する「アクシー・インフィニティ」というゲームだ。「アクシー」と呼ばれるゲーム内のキャラクターを育成し、他のプレーヤーと戦う。対戦に勝利したり、保有するキャラクターをマーケットプレイスで販売したりすることで「SLP」や「AXS」というゲーム内の通貨(トークン)を獲得できる。

 SLPやAXSといったトークンや、売買の対象となるキャラクター「アクシー」などはブロックチェーン技術を使って発行・流通・管理されているため容易に偽造や改ざんができないようになっている。そしてゲーム内で稼いだSLPやAXSは暗号資産(仮想通貨)取引所などを介してタイバーツなど各国の法定通貨に交換することが可能だ。

ブロックチェーンゲーム人気の火付け役となった「アクシー・インフィニティ」
ブロックチェーンゲーム人気の火付け役となった「アクシー・インフィニティ」

「雇用」を生むブロックチェーンゲーム

 ブロックチェーンを活用し独自のトークンを発行するゲームは「ブロックチェーンゲーム」とか「NFT(非代替性トークン)ゲーム」などと呼ばれ、東南アジアを中心に世界的な盛り上がりを見せている。

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