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(アリババグループ提供)

 騰訊控股(テンセント)をはじめとする中国IT(情報通信)企業数社は状況を見守った末、数日をかけて1つの結論にたどり着いた。それは「コスト度外視で人員や設備に予算をつぎ込むことだ」。

 テンセントでWeChat Workの提携事業担当責任者を務める李致峰氏はこう振り返った。新型コロナウイルスの流行に伴って急増したトラフィックをさばくため、テンセントはWeChat Workのサーバーを10万台、アリババ集団はDingTalk用に10万台以上、クラウド内で運用するサーバーを増やした。

 データ通信量が爆発的に膨らんだこの時期は、少しの油断で競争から脱落しかねなかった。「新型コロナウイルスの流行という商機は一瞬のもので、ここ2~3カ月を逃したら2度とチャンスをつかむことはできない」。華為技術(ファーウェイ)に10年以上勤めるある社員は、社内の対応がニーズ拡大に追い付けず、「我々のWeLinkチームは準備が甘かった」ともどかしさをにじませた。

 WeChatやテンセントミーティング、テンセント課堂(Classroom)などテンセントのサービス群は利用者にとって存在感抜群だ。その中でWeLinkは今年に入って以来、バージョンアップを4回行っただけ。インターネット企業は進化のスピード感が問われる。DingTalkやテンセントミーティング、WeChat Work、字節跳動科技(バイトダンス)の飛書といった競合製品は毎週のバージョンアップを欠かさず、場合によっては数日ごとに一度更新している。

 大手がしのぎを削る中で、いち早くサービスを展開したのはアリババ集団のDingTalkだった。アリババは、法人市場をにらんで失敗に終わったSNS(交流サイト)「来往」の開発チームが手掛けたDingTalkを2015年1月に発表した。業界に精通した専門家は、「この分野は技術や商品性よりも、いかにデータ通信量を制御するかが問われる」と指摘する。

 DingTalkは賢明な選択をしたと言える。アリババが得意とするECサイトとの連携を重視したからだ。サービス開始1年目に獲得した法人ユーザーは100万社を超え、競合他社を一歩リードした。「ファーストステップとして店舗を経営する顧客をつかむ。セカンドステップはサプライチェーンを攻める。3つ目に物流だ。そうすると最後には必ず消費者に近づく」。DingTalkのユーザーの多くは零細企業であり、それが後発の競合他社を寄せ付けない強みとなった。

 今年1月に入ってすぐ、DingTalkの1日当たりのアクティブユーザー数は3000万の大台に乗り、WeChat Workの約5倍になった。華為技術(ファーウェイ)とバイトダンスはその間、10万前後で横ばいを続けた。これまでの5年間、DingTalkはほぼ3週間に一度のアップデートを欠かさず続けてきた。

 コンシューマー相手なら気軽にリリースしたプログラムが大ヒットすることもあるだろう。だが、法人向けサービスは組織が相手だ。DingTalkの白恵源副総裁は、「顧客企業は社運を懸けている」と指摘する。だからこそサービスにはより高い安定性を求める。また組織内においても多様なニーズがあり、改善のスピード感が問われる。