全6802文字
 新型コロナウイルスの脅威に世界で真っ先に直面した中国。政府の指示による強制的な在宅勤務やオンライン授業へのシフトは、異次元のスピードで中国企業の働き方に変容をもたらしつつある。中国経済誌「財新週刊」はその時、アリババ集団、騰訊控股(テンセント)、華為技術(ファーウェイ)など中国IT(情報技術)の巨人たちがどのように動いたのかを明らかにしている。中国で起きた変化を知ることは、現在同じ状況に直面する日本企業にとっても参考になるはずだ。

 かつてないほどの活況に、中国のテレワークビジネスは笑いが止まらない状況だ。

 中国は新型コロナウイルスの感染対応から企業活動の再開へとかじを切り出した。かつてスマートフォンのアプリストアのランキング上位に名を連ねたアプリは動画共有アプリの「抖音(TikTok)」や「快手」だったが、今やアリババ集団参傘下企業が提供する「釘釘(DingTalk)」や、テンセントの「テンセントミーティング」へと変わった。同じくテンセントの「WeChat Work(企業微信)」も「WeChat(微信)」を超えてトップ10にランクインを果たした。

 感染拡大が最も深刻なイタリアにおいても3月以降、アプリストアのランキングは徐々に中国のそれと同様の傾向を示している。モバイルデータ分析の七麦数据によると、イタリアで長い間トップの座を占めていたTikTokやYouTubeは3月以降順位を落とし、「Google Classroom」や「Skype」、「Zoom」、米マイクロソフトの「Teams」などテレワークで使われるアプリに上位の座を明け渡した。

 新型コロナウイルスの急激な感染拡大とそれに応じた社会的な対策は、新しいアプリの需要を次々と生み出している。体調チェック報告やテレビ会議、遠隔授業支援システムなどはほんの序の口だ。クラウド上で入学式、パーティー、工事現場監督、果ては街の散策まで可能なのだ。アプリを利用すれば、多数参加型のイベントをそのままオンライン上で開催できる。

 新たなオンラインビジネスの快進撃に大きく貢献したのは、意外にも学生だった。後から振り返ってみれば、今回の新型コロナ感染騒ぎで最もユーザーを増やしたのは教育分野かもしれない。WeChat Workの提携事業担当責任者の李致峰氏は財新記者に以下のように語った。「毎日最も利用されるのは動画配信と体調チェックだ。この2つの利用者数は企業や教育機関が使うツールの中で1位、2位を争っている」

 4年前から教育分野に進出したアリババ傘下のDingTalkは、今回の新型コロナ感染が拡大する中、およそ14万校・290万クラスで利用された。利用生徒数は1億2000万人に達し、350万人の教員がDingTalkでユーチューバーさながらの活躍を見せた。DingTalkの利用者層データを見ると、18歳以下の増加が特に顕著だ。中国ネットリサーチ大手のクエスト・モバイルの調査報告によると、2月3週目にDingTalkユーザーに占める18歳以下のシェアは10%を上回り、1月に比べて倍増したという。

生徒に向けて教師がオンライン授業(写真:新華社/アフロ)

 四川省成都市に暮らす高校生の盼盼(パンパン)さんは、教員の指示を受けて、ここ1カ月間毎日、授業の受講や宿題の提出、出席確認などのためにインスタントメッセンジャーの「テンセントQQ」やWeChat、DingTalkを利用している。うっかりすると、メッセージを見逃してしまいそうになる程だという。1000km離れた河北省石家荘市では大学生の孫さんが、オンライン教育支援システムの使いにくさに「授業に導入された9つのアプリに低評価レビューを付けてやりたい」と不満を口にした。

 このような現象が、中国の様々な場所で起きた。せっかくの休暇を奪われた子供たちが、オンライン教育に使われるアプリにこぞって低評価を付けるという反乱を起こしたのだ。テンセントミーティングやDingTalkなどはいずれも「星1つ」が最多となり、その次に多いのが「星5つ」となった。こうして、このようなツールに対してアプリストアで付けられる評価は二極化した。

 学生だけではなく、地域に密着した公務員や病院勤務の医療従事者、在宅勤務を導入した企業なども加わったことで、テレワークの新しい流れができたと言える。

 新型コロナウイルスの流行が収束した後に果たしてどれだけのユーザーが残るかは、業界全体で考えなければならない課題と言える。「今後(感染収束後)も利用し続けてくれるユーザーは半分もいないだろう」と、あるクラウドサービス企業の責任者は予想する。だが、利用者数がどんなに落ち込んでも感染拡大前を下回ることはないとし、「今回の教育産業市場の急拡大だけで十分な効果を得た」と手応えを語る。

 「ほとんどの人がデジタル化の重要性を認めていたが、これまで企業における普及は思うように進まなかった」。DingTalkの白恵源副総裁は、財新の取材にこう述べた。白氏によると、これまで、デジタル化を唱えながらも何をすればよいか分からない企業もあった。その一方で、思い切って踏み出してみたものの結局うまく活用できずに逆戻りする企業もあった。だが、今回は感染対策として、いずれのタイプの企業もDingTalkを活用した。社員の体調チェックや操業再開に備えた情報発信、各業界が求めるオフィス業務効率化などのニーズにうまくマッチしたためだ。白氏は、利用者層の大幅減は将来にわたってあり得ないどころか、総合的に右肩上がりになるのではないかと予想する。なぜなら今回、皆がツールを利用して、実際に習慣として定着したからだ。