2月15日、フォックスコン深圳工場はようやく湖北籍以外の従業員に招集をかけ2月19日までに復帰するように促した。そして鄭州工場は2月17日に河南省内限定で求人広告を出している。ところが、わずか1日後、鄭州市内の居住者以外をすべて求人と復帰の対象から除外した。他地域から帰ってきた人を一定期間隔離するための施設が不足していたためだ。

 姚同さんはフォックスコンの通知書を受け取った3日後、湖南省株洲市の実家から深圳に戻ることができた。そして、フォックスコン深圳工場観瀾パークの敷地内にある集合住宅に入居し、2週間にわたる隔離生活を始めた。リフォームを施した一人部屋の社宅である。寝具など生活用品は会社が提供し、一日三食を部屋まで届けてくれる。「食事内容は悪くない。牛乳もあるし、リンゴも食べられる」。姚さんはフォックスコンの復帰対策に満足している。

 ほかに1320人の男性従業員が、姚さんと同じ寮に隔離された。フォックスコン深圳工場には、こうした隔離用の寮がほかにも数多く整備された。

 フォックスコンは操業再開に向け、一分一秒を争うように対策を進めている。それでも、再開は例年よりも遅々として進まない。2月6日、フォックスコンの衛生責任者は深圳市疾病管理センター査察チームに次の内容を報告した。2月10日までに5万7000人が深圳工場に戻る見込みとされ、深圳にとどまっていた2万人の従業員と合わせて約7万7000人が集結できる。復帰率は43%となる見通しという。

 フォックスコンの招集作戦は様々な側面から「世界の工場」としての中国を如実に映し出している。感染が拡大する中で、再スタートへの焦燥感、努力、慎重さとやるせなさが表れていた。

 今後数週間、製造業は再び軌道に戻るにあたって正念場を迎える。しかし、まだ見通しは立たない。財新記者は複数のアナリストを取材した。楽観的な見方の中には、湖北地域以外は2月いっぱいで工場の8割以上が再開するのではないかという意見もある。その一方で悲観的な意見もある――8割の再開を達成するには3月末までかかるのではないか。全面回復は4、5月頃まで待たなければならないとの見方だ。

なり振り構わぬ人材争奪戦が始まった

 操業再開には、とにもかくにも人材が必要だ。中国全土に散った従業員を集結させなければならない。職場復帰を促すため、フォックスコン鄭州工場は所定通り復帰した従業員に3000元(約4万7000円)の手当てを支給することにした。しかし、この程度のインセンティブは、特に魅力的なものではない。同じく感染地域にある仁宝電脳(コンパル)の重慶工場は数回に分けて、4500元(約7万円)の奨励金を支給すると決めた。加えて、春節前に退職した元従業員が復帰した場合、従来の条件や待遇の継続を保証するとアピールした。これを受けて、フォックスコン鄭州工場はさらに復帰奨励金を5250元(約8万円)にまで引き上げた。

 「どちらも世界屈指の委託加工メーカーであり、製品の品質には大差ない。こういう時、次の発注につなげるには、素早く人材を集め、受注をしっかり仕上げるに限る」。ある委託加工メーカーの内部関係者は、再開にこぎ着けるための人材争奪戦は、このタイミングでは特別な競争を意味すると語った。

 しかし、インセンティブだけで、従業員は動かない。春節明けには、中国産業界全般が人材不足に頭を抱えた。一部地域は、苦境を見越して早々に対策を打ち出している。2月3日、浙江省は企業の操業再開と感染防止に関わる17カ条の規定をいち早く公表した。大半の企業に向けて2月9日までの再開を禁止する一方で、再開に備えて準備作業に着手するように呼びかけた。

 浙江省の義烏市は、世界最大の日用雑貨卸売市場があることで知られる。浙江省が再開支援対策を議論する会議を開いたその日、義烏市政府は十数社の企業関係者を集めて、少人数の非公開会議を開いた。そして会議の後、出席した十数社の企業は再開申請書を提出した。義烏市長と同市共産党委員会トップは申請企業を逐一視察した後、6社の企業を再開第1弾として承認した。

 「3日に会議出席。5日から準備に取り掛かり、同時に従業員たちに再開の通知を送った。8日か9日ごろにはもう準備万端整ったが、待てど暮らせど社員は帰って来なかった」。双童日用品公司の楼仲平社長は、こう振り返った。中国各地で村単位での閉鎖や道路閉鎖が実施されており、復帰する従業員を足止めする大きな障害となっていたのだ。双童社は義烏で操業を再開する企業の第1弾に名を連ねていた。

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