「回復の見込みはまったく立っておらず、毎月の不足分は貯蓄を取り崩して補っている状態です」
大阪府在住の井上亮子さん(39歳、仮名)は今、毎月12万円ある住宅ローンの支払いに頭を悩ませている。会社員の夫、晴彦さん(43歳、仮名)が、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛、リモートワークといった生活環境の変化で2020年秋にうつ病を発症し、仕事を休みがちになってしまったのだ。
元気に働いていた頃の晴彦さんの毎月の手取りは約39万円あった。パートタイムの外来看護師として働く亮子さんの収入6万円と合わせると約45万円。現在、部署を異動し欠勤を繰り返しながら働く晴彦さんの給与は毎月13万円ほどあるものの、12万円のローンを支払うとほとんど残らない。毎月の生活費を4万~5万円切り詰めているが、毎月約20万円赤字の状態が1年近く続いている。
亮子さんがフルタイム勤務となって収入を増やす方法も検討したが、フルタイムで働くとなると病棟勤務となり、月に数回は夜勤をこなさなければならなくなる。小学生の子どもがいるため難しい状況だ。約2000万円あった貯蓄が減るスピードは想像以上に早く、このまま減ってしまう状態が続けば、4000万円で購入した自宅を売却しなければならないと亮子さんは思い始めている。

コロナ禍で収入が減少し、住宅ローンの返済が負担になる世帯が急増している。2020年3月から21年8月までに金融機関に寄せられた住宅ローンの返済計画に関する条件変更の申込件数は累積で5万5000件超と、1年前(同2万4000件超)の2倍以上となった。金融庁が住宅ローンの条件変更に対して柔軟な対応を金融機関に要請していることもあり、条件変更は約97%の割合で実施されている。
条件変更は主に、返済期間を延ばすことで月々の返済額を軽減するものや、返済期間は変えずに期間限定で返済を利息分だけにしてもらい、期間終了後に元金を残りの期間で返すよう再計算するものがある。ただ、いずれの方法もデメリットがある。返済期間の延長は利息分の負担が増える。もう一方の返済期間を変えずに期間限定で利息だけを返済する場合は期間終了後、毎月の返済額が急増する。
そもそも、返済までに20~30年と長い年月がかかる住宅ローンは、毎月一定の収入があることを前提に返済計画が立てられる。コロナ禍はこうした目算を大きく狂わせた。家計再生コンサルタントの横山光昭氏は「ボーナスありきで返済計画を立てた人の多くが、返済に行き詰まり相談に訪れている。訪れる人たちは『ここまで収入が減るとは思わなかった』と必ず口にする」と話す。
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